TOP第9回入賞作品第9回 佳作「身体の謎解きだよ」
最終更新日 : 2024/12/04

第9回 佳作「身体の謎解きだよ」

「身体の謎解きだよ」
山崎 人功さん(長野県 安曇野市)

 去年までの後期高齢者健診では殆どの項目で異常認めずだったので安心して、先祖伝来の我が遺伝子は幸いにも白寿は可能なのだと感謝して人生百年時代を楽しもうと思っていたのだが、今年は春先の風邪は治ったのに頭痛と目まいとだるさが続くので心配になってきた。
 九十すぎまで生きていると友人知人達のさまざまな病気についていろいろと見聞きしているので、ともあれ体調不良が続いている謎を解いてみなければと初めて腦外科クリニックで頭部MRI撮影をしてもらうことにした。すると「脳血管は綺麗で全く心配ありませんよ。九十歳過ぎたのに七十歳の腦ですから安心です」と褒められたので嬉しくなって家族や友人に吹聴していたが、頭痛は薬で治っても食欲は衰えてくるし微熱も出るので久しぶりに主治医にみてもらったところ「血液検査のCRPの異常数値から身体の中で何か炎症等の異変が起きていると考えられるので、一日も早く総合病院等で諸検査をするように」と強く言われて驚いてしまった。
 長い間健康優良爺を自認していた私は人間ドックの検査項目を見てたじろいた。X線検査や心電図検査や超音波検査は良しとしても、胃や大腸の内視鏡検査といった苦痛を連想する検査は真っ平御免なので、人間ドックはお預けにして暫く体調の変化を見ようかとも考えたが、心配する妻や娘から「謎解き大好き爺ちゃんが何言ってるんですか。身体の変調の謎は検査でちゃんと解けるんですよ。難問が解けたら万歳しよう」と言われてしまった。私は新聞や雑誌のさまざまな腦トレクイズやパズルにチャレンジすることが大好きで、見事に正解した時には思わず万歳と叫んでしまうのだった。
 私は人間ドックで体調不良の謎を解いて万歳するのだと覚悟をきめて十年ぶりに病院へ行ってみた。世の中は広いが病人もこんなに多いのかと驚きながら人の身体の謎の多さと不思議さと、その謎を解いてくれる検査と医療のありがたさを改めて感じつつ検査をすませたが、胃カメラ検査は異常なしで大腸検査も小ポリープ一ヶ切除で問題なし、腫瘍マーカー判定も異常なしということだったので安心した。その他の項目も異常なしのAか、僅かに異常があっても日常生活に差支えなしのBだったのでやれやれ良かったと思ったが、異常を認めるので精密検査を受けてくださいのEが炎症項目にあった。何やら不氣味な謎が身体の奥深くに潜んでいそうで私は心配になってきた。知らぬが仏だった健康優良爺は突きつけられた正体不明の謎に目の前が薄暗くなっていくようだった。
妻や娘にはもうじき難問正解で万歳さと言いながら検査入院することになったが、難解パズルでお手あげだったこともあるように検査で謎解きにも限界がありそうな氣がしてきたり、己が人生を振り返って知足常楽さと呟いていた。
 やがて腎生検等も無事に終えて診断結果は自己免疫血管炎と知らされた。遂に謎は解けたのだと私は感動した。難病だが治療効果のある薬もあるので隔月通院して検査と診察を続けているが、完治も近いので万歳である。
 地域の長老である私は友人や仲間たちに折にふれて話しているのは「人間ドックは身体の謎を見事に解いてくれるんだよ。正解万歳だね」である。