TOP第9回入賞作品第9回 佳作「運命のレントゲン写真」
最終更新日 : 2024/12/04

第9回 佳作「運命のレントゲン写真」

「運命のレントゲン写真」
西川 恵子さん(兵庫県 姫路市)

「よくこのレントゲン写真で見つけてもらったね。」
 担当医の先生が発した言葉を私は今でも忘れることが出来ない。診察室のパソコンに映された一枚の写真。このレントゲン写真こそが私の人生を変える大きな転機になったことは間違いない。
 ちょうど10年前になる。毎年受ける職場の健康診断で初めてE判定がでた。びっくりした。それまで大きな病気をしたこともなく健康には人一倍気を使っていたので何かの間違いではないか?と思った。職場での健康診断は毎年1回必ず受け、オプションの腫瘍マーカーも追加料金が必要だったが私にとってはこれで早めに病気が発見出来るのであればお安いものだと思っていた。働き出してから受けた健康診断は大抵A判定かもしくはB判定の検査結果だった。なのにE判定?どうして・・とまどいの方が大きかった。診断結果も通常なら結果表だけが届くだけなのだが、今回はそれにプラス”厳封”と印を押された紹介状が同封されていた。なんだこの重々しい封筒は・・と内心思ったが、同時に不安の波がどっと押し寄せた。封筒に記載された赤い文字の“至急”。それに同封された再受診の勧めの一枚の紙に怯えた。性格的にそのまま放置することは出来なかったので、確認の意味もこめて再度受診することにした。
 ところがいつものかかりつけのお医者様に行ったら、大きな病院を紹介するから再検査してもらうように言われた。内心ビクッとした。「大分悪いんですか?」と思わず質問してしまったが、先生曰くCT等の機器がある総合病院の方が良いとの判断だったようだ。
その時まだ40歳で仕事が忙しくなっていた時期だった。なかなか時間が取れなかった為、もう少し先延ばしにしても良いか?と相談した。「早めに受診した方が良い。可能なら明日にでも」と言われた。先生のお言葉もあり今は仕事を優先すべきではないと判断した。予約が必要だったためその場で紹介していただく予定の病院に電話を入れた。運よく次の日に予約が取れた。その時点で自分の身体の胸部に異常があることは健康診断の結果で分かっていたが、どの部分に何があっての異常なのかが分からなかった。例えば何か病気をしていて症状が出ていれば自覚するかもしれないが、そういう事もなかった。だから余計に不安だった。
 病院には自宅に届いた健康診断の結果と“厳封”と印を押された封書を持参した。運よく早めに呼ばれ再検査をすることになった。一般的な血液検査から始まりレントゲン撮影をし、念のためCT検査もすることになった。細胞診の検査も行った。が、はっきり悪性腫瘍だと断言できる結果は得られなかった。その後、日を変え全身PET検査も受けた。が結果は同じ。その時点で肺に何かの影が見えるがそれが悪性なのか良性なのかがわからないとの結果だった。まだ年齢も若いほうだったので手術をするかどうか迷っていた。私には2人の子供がいた。保育園と小学生でまだ幼く手術をするとなると入院しないといけなくなる為悩んだ。
 当時担当して下さっていた主治医の先生が女性の方だった。とても親身になって患者の気持ちに寄り添ってくれる先生で私の悩みを相談した。「はっきりとした診断はついていない現状ですが、肺には影が映っています。何かがあるのは間違いないです。手術することをお勧めします」と言ってくれた。その言葉で手術することを決めた。私にとっては力強い一言だった。
 手術後、麻酔が切れて目を覚ました時主治医の先生がそばにいた。先生は目を逸らさずしっかりとした口調で告げた。
「悪性腫瘍でした。すべて切除しました。」
ぼんやりとただ一言「ありがとうございました」と伝えた。
 あれから数十年。生きていられることに感謝しない日はない。あの職場での健康診断で撮影した一枚のレントゲン写真がきっかけとなり癌の早期発見につながった。自分がいざ病気になってみると健康診断がどんなに大切かに気づく。いつどこで病気になるかは誰にもわからない。だからこそ健診の大切さを周りの人たちに勧めていこうと思っている。