質問: お客様から帰国後に、次のような申し出を受けた。特別補償の損害補償金を支払わなければならないのか。
(1)台湾旅行中に腕を物にぶつけて高価な時計を壊した。物にぶつかったばかりのときにはその時計は動いていたが帰国便に搭乗する直前に止まった。
(2)時間に余裕が無かったので、警察には届けなかった。
(3)とある相談機関に聞いたら「本人の過失でも補償の対象」といわれた。
【回答】
特別補償規程(第16条)では「当社は、当社が実施する企画旅行に参加する旅行者が、その企画旅行参加中に生じた偶然な事故によってその所有の身の回り品に損害を被ったときに、本章の規定により、携帯品損害補償金を支払います。」と定められておりますが、他に本人の過失(故意は除く)による事故を補償の対象外と定める規定がないことから、本人の過失による事故であったとしても、それが「偶然な事故」といえるのであれば、補償金の支払い対象となります。
しかし本問の場合、それが本人の過失であったかどうか以前に、損害補償金の請求に必要な(特別補償規程第21条1項で旅行者に求められる)、偶然な事故があったことの警察又は第三者の証明がありません。それを取得するのは本人の負担であり、旅行業者がそれを負担しなければならないものではありません。客観的な証明がなければ、それは本人の“主張”に過ぎません。事故の発生が証明できなければ、補償金を支払う必要はありません。
なお、旅行者から「自分で掛けた海外旅行保険の携行品特約で紛失した品物の保険金を請求するので、添乗員又は旅行業者で盗難にあったことの証明書を発行して欲しい。」と依頼されることがあります。しかし、添乗員や旅行業者として盗難の日時や、そのときの詳しい状況など客観的な証言ができないならばこのような証明はすべきではありません。不用意な証明書の発行は、保険金詐取の手伝いになる可能性があります。ほとんど場合、添乗員や旅行業者として証明できることは、「○月○日に旅行者からそのような報告があった。」という事実のみでしょう。
補足になりますが、特別補償規程、海外旅行保険とも、「置き忘れ」や「紛失(=無くし物)」は損害補償金や保険金の支払いの対象外です。航空機にチェックインした手荷物の事故は、損害補償金や保険金の支払い対象となりますが、このような事故についても、一般には「紛失」と呼ばれることが多いことから、旅行者への保険の説明の際に、「手荷物の紛失などのときに保険金が支払われます。」と案内しがちです。このような説明のしかたは、「単純な『紛失』でも損害補償金や保険金が支払われる。」との誤解を旅行者に与え、後々トラブルの原因になりますので案内の際には十分注意してください。