質問: 得意先企業との間で出張者のための契約を締結し、後はメールでのやり取りのみで出張者の航空券やJR券等の手配をしているが、契約により支払は後払いである。最近、これに加えて当社が受託販売している募集型企画旅行を利用した出張も受けてほしいと依頼されたのだが、仮に募集型企画旅行の申込金を受け取らずに旅行代金全額を後払いにした場合、その旅行が取り消しとなったときは取消料の請求ができるか。
【回答】
継続的な取引関係のある企業と旅行業者との間では、「基本契約書」を交わし、標準約款手配旅行契約の部第8条(契約成立の特則)に基づき申込金の支払いを受けることなく手配旅行契約を成立させて、旅行サービス提供機関の手配を引き受けることが実務上行なわれています。
本問は、募集型企画旅行においても同様の特約を結ぶことは有効か、との趣旨になりますが、募集型企画旅行契約は原則として申込金を受理した時に成立し(同約款募集型企画旅行の部第8条1項)、手配旅行契約のような特則はありません。
この点について、『旅行者に契約の成立を意識させ取消料負担の危険を負わせる趣旨があることからすれば、申込金さえ不要とする「後払いの特約」は、取消料負担の危険という面では、旅行者にとってより容易に契約の拘束を受けさせるという意味で、旅行者には不利な特約と解される。したがって、旅行代金の支払という問題においては、「後払いの特約」は有効であるが、取消料の支払という問題においては、旅行者にとって不利な特約として無効と解される。』(三浦雅生著「改正・標準旅行業約款解説第2版」(株)自由国民社33頁)と解説されているように、取消料が取れない可能性も否めないことになります。
しかし、取引が継続的に行われて、「基本契約」まで交わしている、いわば特別の関係にある得意先企業との取引であることに鑑みれば、「後払いの特約」は旅行者(得意先企業)にとって必ずしも不利な特約にはならないものと考えられます。そこで、企業担当者の承諾を得て募集型企画旅行についても「基本契約書」を交わし、後払いの特約を有効に取り扱ってもらうことも1つの方法だと思われます(※)。
なお、「後払いの特約」の有効性については裁判所の判断もなく、本来は回答できないというべきところですが、実務に折り合いをつける方法としてご活用いただければとの思いから、あえて掲載しています。
※設問NO.92で紹介した基本契約書の記載例に募集型企画旅行契約の記述(下線)を追記してください。