質問:募集人数が限定された旅行で、一人のお客様から、「まだ行けるかどうか分からないので、とりあえず仮申込みをしたい。」と言われ申込金と申込書を預かった。後日、「行けるようになったので仮申込みを正式契約にしたい。」と連絡があったが、その時には既に募集枠まで埋まってしまっていて、このお客様の申込みを受けられない状態だった。「申込金を払っているのに、ダメとは何事だ。」と言われているが、当社の取扱いは間違っていたのか。
【回答】
「仮申込み」、「仮予約」など、法律的な意味合いがはっきりしないまま使われる言葉があります。旅行者との対応に当たっては、旅行者の言葉の意味合いを確認しながら、その意図するところを正確に把握して対応する必要があります。
旅行者からの「仮申込みをしたい。」との申出は、「いずれ正式な申込みをするかも知れないから、そのときのために枠(予約の受付の順位)をとっておいて。」という意図のものだと考えます。これを受けて、旅行業者が申込金と申込書を預かった場合、法律的には、その時点で旅行者と旅行業者との間で“旅行契約の予約”が成立していると考えられます。
この場合、旅行者が旅行業者に対して予約を本契約にする旨の意思表示(=予約完結の意思表示)をした時点で旅行契約が成立します(民法第559条・第556条1項)が、旅行業者は、この時点では旅行契約の締結を拒否することはできません。そもそも申込書と申込金を受け取ってしまっている時点で、予約どころか、始めから本契約が成立していると主張される可能性もあります。
旅行者から本問のような申出があった場合に、これを受けるのであれば、トラブルを避けるために以下のような取扱いをする必要があります。
(1)旅行業者が一定の期間を定めて、“その期間内に旅行者が本契約にするかどうかの通知をすること(予約完結の意思表示をすること)、及び、期間内に通知が無い場合は、旅行業者は予約はなかったものとして取り扱う”こととして、これを取引条件説明書面に付記して、“旅行契約の予約”を成立させます。旅行業者は、上記に定めた期間は、その旅行者の為に契約の枠(順位)を確保しておく必要があります。
なお、“旅行契約の予約”を成立させるには、申込金を収受する必要はありません。もし預り金として申込金に相当する金額を預かる場合には領収書の但書には「預かり金」とし、申込金と混同されないように取引条件説明書面にも「お客様から契約を締結する旨の通知をいただいたときに上記の預かり金は申込金に充当します。」と記載してください。
(2)旅行者から、上記の期間内に「予約完結の意思表示」がなかった場合は、予約はなかったものとして取扱い、旅行業者は予約を取り消します。また、この期間内に旅行者から「予約を取り消したい。」と通知があった場合も同様です。申込金相当額を預かっている場合は、これを返金します。
なお、この時点で取消料が掛かる期間に入っていても、「本契約」は成立していませんので取消料を収受することはできません。
以上のように、旅行者のいう「仮申込み(予約の申込み)」に応じるとすれば、旅行業者側に「枠を維持する(=実務的にはその旅行者のための手配を維持する。)」という負担が掛かり、また、予約を取り消された場合でも取消料も収受できないというリスクがある一方で、「いずれ当社に申し込んでくれるのではないだろうか。」という“漠然とした期待”以外の利益は無いことになります。
標準旅行業約款には、電話予約の場合を除き予約に関する規定がありませんので、旅行者からこのような申し出があってもお断りすることができます。
むしろ、旅行業者としては、「仮申込みは受けておりません。」とお断りし、その場で正式な申込みをしてもらうよう誘導するのも現実的な対応の一つではないかと思います。