ミーハーな僕は知名度で名門大学を選び、就職先も有名な大企業だった。でも数年後、そこを辞めて実家を継いだ。過去を未来に繋げている、そんな実感が欲しかったから。実家は100年以上の歴史を持つ餅屋。その歴史を継ぐことで、自分の人生を未来に繋ぎたい。そう思った。店主の母は「自分の代で店を閉める覚悟はあるから、無理して継がなくていい」と言ってくれたけれど、長い歴史を終わらせるはもったいないと僕は思っていた。しかし地元の老舗でも、高齢化がますます加速する田舎の小さな店だ。新規のお客がつく望みは薄く、金なし、ログなし、PR戦略なし。新人店主として頭を悩ませていた僕は、ある時思った。「餅を買う人は、餅というよりそれに付随するストーリーを買うのでは?」職人の経歴、素材へのこだわり、店のロゴや商品の見た目。一歳の誕生日を祝う一升餅など、一つ一つに様々な物語が詰まっている。文化や歴史も加えて、周知するのがPRだと気づき、様々なコト創りを始めた。特に力を入れたのは地域の大学生や留学生と協力した製品開発。若者の新しい感覚、異文化の感性を取り入れて、どんな化学変化が起こるのか試してみた。結果、あるイラン人留学生の開発した「シナモン餅」がメガヒット。TVや新聞への露出で取組みを宣伝すると、新たなお客さんが県外からも来てくれた。小さな餅屋を数千キロ離れた地方の人にも知らせてくれるPRの力はすごい。色んな背景と才能を持った人が、うちの店を舞台に様々な物語を紡いでいく。それが繋がり、店の新しい歴史となる。進化し続け、人に愛されるものは未来へと繋がっていく。モノからコトへ、形が変え、時代に変化しながら伝統続いて行く。それをPRし続けることが、僕らの歴史を繋げることになるのだ。