物打(ものうち)とは刀で一番切れる部位のことです。
古来より一般的な90センチ前後の日本刀(打ち刀)の物打の部位は、切先三寸といわれ、切っ先から約10センチ弱の部分といわれておりましたが、現代の科学的な実験によりますと最も切れる部位は切先三寸ではないそうです。
室蘭工業大学の名誉教授 臺丸谷政志(だいまるや まさし)先生の研究では、日本刀の物打(切断能力の高い部位)は、切先からおよそ20cm~21cmの僅か1cmほどの部位に限定される研究結果が出たそうです。
日本刀の物打を科学的に特定するのに、臺丸谷先生は日本刀モデルに物を衝突させ、その衝撃が日本刀モデルにどのように伝わるのかを分析しました。
各部位でこの衝撃応答を測定した結果、衝撃応答の波(定常波)の値が最も少ない部分が明らかになりました。これが、先程示した切先からおよそ20cm~21cmの僅か1cmほどの部位に該当するそうです(下図参照)。
定常波が少ないということは、刀の運動エネルギーが最も効率よく対象物に伝わる場所と言い換えることが出来ます。
要するに物打とは定常波の節の部分ということです。
下図を見ますと、日本刀の目釘穴の部分の物打同様定常波が少ないことがわかります。目釘は竹一本で柄を留められ得ている理由もこの定常波の低さによるものと考えられます。
この日本刀の物打の例えを野球のバッターを例に説明しますと、
ホームランを打ったバッターにその手応えを聞くと、殆ど手応えなく、軽くバットを振り抜けたという返事をよく聞きます。これを科学的に説明すると、バットの運動エネルギーがボールに効率よく伝わった結果、ボールは遠くまで飛ぶということだそうです。
逆にバットの運動エネルギーが分散すると四方八方に逃げた衝撃がバットを通じて手に伝わります。これが「手がしびれる」という現象とのこと。ボールに伝わらなかったエネルギー分ボールは遠くに飛ばず、結果として凡打になるそうです。
刀の場合も同様で切れる部位では定常波が小さくなります。もちろん、刀の形状や反り具合によって刀の物打は多少変化するのでしょうが、剛性の高い日本刀ではその差は非常に少ないと考えられているそうです。
以上です。