ご相談者様プロフィール
新宿に4店舗、吉祥寺に1店舗で喫茶店を経営し、オリジナルのドリップパックを自社オンラインショップの他、全国各地の百貨店や高級スーパーを中心に販売している。
本店は新宿の思い出横丁に、戦後すぐから洋品店として開業したのがルーツ。その後に喫茶店として再オープンし、半世紀を超える歴史のあるお店。
新宿の思い出横丁の角地という目立つ立地で、レトロな外観・内観ともに古き良き新宿の空気を今に伝えているかのような空間。
ショッピング帰りにほっと一息、というお客様や、新宿で働く方々に多くご利用されている。
ご相談内容
コロナ禍によって客足が減少し、売上げが低下している。
ブランドを広く知ってもらい、興味を持ってもらいたい。話題作りをしてメディアに採り上げてもらい、来店に繋げたい。
また、ウェブマーケティングも強化していきたい。
所見
都内でも夜の街を抱える新宿は感染者数も多く、コロナ禍の影響を比較的強く受けています。その影響は、居酒屋が密集し、多くのインバウンド客にも人気だった思い出横丁にも大きく現れ、そこに位置している喫茶店も影響を受けています。
実店舗への影響は各店舗によってさまざまとのことですが、一時期よりも回復したとはいえ全体的に客足が減少しています。
今、多くの飲食店がECサイトやデリバリー、テイクアウトに注力しています。そこで成功している飲食店は、SNSなどでの「ファン作り」に成功することが下地であり、コロナ後の全ての飲食店のあるべき姿だとも言えます。
当喫茶店も公式ページがあり、公式Twitterなども運営され、様々な媒体へのアプローチを働きかけることで、積極的なPRをされているのですが、ファン作りとして効果があるのかというと、あまり手応えがないとのことでした。
そこで、当喫茶店様がファン作りをしていくためのPR戦略を提案致します。
ご提案の前提
深煎り焙煎によるビターな味、そしてネルドリップでの丁寧な抽出という、こだわりのコーヒーを提供する同店。そのこだわりは素晴らしいもので、コアなファンもたくさんいらっしゃいます。
一方で、新宿の思い出横丁というシンボリックな場所に戦後すぐから店舗を構え、昭和の香りを今に伝えているというのはかなり強いストーリーになり得ると考えます。
一つの例を挙げます。
先日、カツカレーの名店である神保町のキッチン南海の本店が閉店されました。閉店を発表されてからは連日長蛇の列となり、キッチン南海の本店がいかに愛されていたか?が話題となりました。(閉店を発表される前から連日10人くらいは行列でしたが)
https://1goten.jp/archives/post-2326.html
キッチン南海は、暖簾分けによって都内や神奈川県など首都圏各所に店舗があります。さらには美味しいカツカレーを出すお店なら他にもいっぱいあると思います。でも、キッチン南海の本店でないといけない理由があるのです。
それは、料理の味はもちろん素晴らしいのですが、それ以上に、背負ってきた歴史だったり、それを感じられる店内の空間だったりすると思います。
そういった歴史がストーリーとなって伝わり、自然にファンを作り、話題となり、宣伝を打たなくても「神保町にあるカツカレーの老舗に食べに行こう」と狙い撃ちで来るお客さんを多く生んだと言えます。
ストーリーは単純で分かりやすいほど伝わります。キッチン南海の場合、「日本3大元祖カツカレー」と呼ばれるお店の一つでした。それはカツカレーという食べ物の黎明期から営業を続けている老舗だからです。その単純な文言により、カツカレーのオリジナルとはどのようなものか?と興味を惹かれることが、お店に行く動機になります。入店すると、昭和のくすんだ雰囲気と、提供されるどす黒くて独特なカレーが、「聖地」感を強く感じさせれてくれて、強いインパクトを残します。
前述の通り、もっと美味いカツカレーだってあるはずです。しかし、キッチン南海のファンは、その味だけではなく、東京の歴史の一部をカツカレーを通じて浴びることに喜びを感じているのです。
再開発が進んで、どんどん失われる「東京の中の昭和」は、ますます貴重になっていくでしょう。
以上はあくまでも一例ですが、相談者様の喫茶店が「新宿の歴史」を味方に付けるブランディングを強く意識されることでストーリーが伝わり、他の凡百の喫茶店との味勝負・快適空間勝負といったレッドオーシャンから抜け出し、唯一無二の立ち位置を確保できると考えました。
そのためのアクションとして、以下に提案します。
ご提案(1) 公式ホームページのリニューアルとストーリー強化
現在、公式ホームページは全面リニューアル作業中で、8月中をめどに新しいものが公開されるとのことです。そこには、今以上に「新宿の思い出横丁で長年の歴史を紡いできました」という表現がなされるとのことで、公式ホームページでのストーリーテリングは強化されます。
提案としましては、何かしらの「1番」を見つけることです。
上述したキッチン南海が「日本3大カツカレー」であるように、新宿で有数の歴史ある喫茶店ですから、他の歴史ある喫茶店との差異があれば、それは「新宿で1番古い、○○方式のコーヒー店」と言うことが可能です。これはキャッチーなコピーとなります。
また、コロナ禍での飲食店におけるの感染対処について、「入り口で手を消毒する」「店内の換気」「ソーシャルディスタンスを保っている」といったことも記載されることを提案します。これは飲食店に行く前に、お店のスタンスを調べるお客様が増えていらっしゃいますので、コロナ禍の今は必要な措置だと考えます。
ご提案(2) 公式Twitterアカウントの戦略的な運営
現在の公式Twitterは代表自らは更新されておられます。更新方法としては、スマホで移動中などになされているとのことですが、なにぶん業務の傍らに行っているので簡易的なものになりやすく、もっと手応えを感じたいとのことです。
TwitterやInstagramはファンを作るための重要なPR手段として捉え、ある程度戦略的にコンテンツを作っていくことを提案します。
SNSにおけるPRの戦略立案として、以下のような感じで立案していきます。
(1)届けたい人(=ファン)に届くコンテンツとは何か?を散発的に考える
(2)そのコンテンツを大まかに3つ~5つくらいの大カテゴリに分ける
(3)大カテゴリの中をどんどん深掘りしていき、出すコンテンツ一つ一つの骨子を決める
(4)骨子に肉付け(テキストや写真、動画)をしていくことで、コンテンツ完成
(5)予約投稿機能を使い、コンテンツを世に出す
(1)~(3)まではマインドマップを使うと素早く整理できると思います。
(4)の時点でスプレッドシートに落とし込みます。((1)からスプレッドシート上で行っても問題ありません)
(5)でしっかりスケジューリングしていくことで、三日坊主だったり、忙しいから忘れるといったことがなくなります。また、同じペースに発信されることで読者が付きます。毎日同じ時間だとベターです。
Twitterで発信される内容としては、俯瞰とディテール、お客様が見えない裏側、社長やスタッフの人間くささ、を意識されると幅が広がり、コンテンツが枯渇することはありません。
Twitterのアカウントを通してブランドが一つの人格のようになってくると、ファンが付いてくると考えます。
そうなれば、ECサイトへのつなぎ込みも容易になります。
効果測定については、フォロワー数を毎日管理していくこと、TwitterからECサイトにどれくらいの流入があったかのトラッキングで行います。
ご提案(3) エッセンシャルワーカーへのドリップパック配布イベントの再実行
先日Twitter上で、医療従事者を対象としたドリップパックをプレゼントという企画をなされましたが、少々寂しい反応になったとのことでした。
しかしながら、とても素敵な取り組みですし、これによってブランドの強化も期待できるはずですので、戦略を練り直しての再実行を提案致します。
一例ですが、エッセンシャルワーカーへのプレゼント企画として、長野県の玉村本店というクラフトビール/日本酒の醸造会社が行った「志賀高原IPA 10,000本無料配布」というものがありました。
この企画は大きな話題となり、10,000本の注文までわずか4分で到達しました。
ちょうど私がこの企画について玉村本店の代表にインタビューを行ってましたので、詳細は下記をご覧下さい。
https://www.hotpepper.jp/mesitsu/entry/bubble-b/2020-00318
この企画のポイントとしては、事前告知の時点にて社長自らブログにストーリーを発表しており、それへの共感性が高まったことが挙げられると思います。
そのストーリーとは、「コロナにて飲食店が休業し、そこにビールを卸している我々も困っているけど、医療従事者など、もっと大変な思いをして世の中に貢献している方々がいる。そんな方々に、労いの気持ちをこめて、我々のビールでほっと一息ついてもらいたい。だから無料配布をすることにしました。」というものです。
このようなストーリーを組み立て、そのアクションが世の中とどのようにリンクし、世の中をどのように変えるのか、を伝えることが出来れば、人は共感してくれます。
ご提案としては、「新宿の思い出横丁に本店を持つ当店ですが、コロナによって他の飲食店と同様に客足が落ち込んでしまいました。しかし私たちは新宿で働く皆様や、新宿を愛するお客様に支えられて半世紀以上の歴史を刻んできました。私たちはコーヒーを提供することくらいしかできませんが、コロナ禍の中で働くエッセンシャルワーカーの皆様を対象に、ドリップパックを無償でお届けすることにしました。私たちのコーヒーで一息ついていただければと思います。」といったストーリーです。
今回、PR TIMES様でのプレスリリースの利用も無償で行えること、そして8月中の公式ホームページリニューアルというタイミングもありますので、それに合わせてのキャンペーン再実行というのが良いタイミングかなと考えます。
話題になりつつも、新宿の歴史とリンクさせるブランディングを行っていることがポイントです。
ご提案(4) 実店舗イベント
■案1:「新宿の歴史」の写真展
新宿の歴史を味方に付けるイベント案として、新宿の歴史を感じさせる写真展を店内で行うといったものです。
例えば、「流しの写真屋」と言われた写真家の故・渡辺克己さんの写真展は、福岡のSTEREO COFFEEさんで行われておりました。
https://fanfunfukuoka.aumo.jp//articles/86149
このように、新宿の歴史をテーマにしたアートとのコラボレーションを行うことで、アートの展示場としてもベストマッチ、そしてお店としては新宿の歴史というブランディングの強化が期待できます。
■案2:新宿のカルチャーを語れる方とのコラボ
新宿の歴史ブランディングの強化は何もアートの展示だけではありません。新宿は多くの文化を生み出した「人の街」ですので、人とのコラボレーションも面白いと思います。
例えば今回のコロナ禍で苦境に立たされている業種といえばライブハウスですが、有名な「新宿LOFT」の創始者である平野悠さんに本店に来て頂き、新宿の歴史、新宿のカルチャーや音楽、思い出横丁の思い出といったことを語って頂くことを動画にしたり、メディアに採り上げて頂く、もしくは自らのホームページ内にて発信する、といったコラボも面白いかと思います。
歴史ある異業種が、新宿という枠の中で、コロナ禍に対して立ち向かっていくというのはドラマ性があります。
■案3:新宿の歴史をイメージしたブレンドコーヒーの提供
こちらも話題作りのためのイベント案です。
ブレンドコーヒーの品揃えを期間限定で「1960年代ブレンド」「1970年代ブレンド」「1980年代ブレンド」「1990年代ブレンド」「2000年代ブレンド」といったものを提供します。
それぞれその時代のコーヒーを取り巻く流行りや世相を、ある程度イメージしてブレンドコーヒーとして再現します。
カップなんかもその時代のものを使われると雰囲気が出るでしょう。
1960年代のジャズ喫茶で提供されていたようなコーヒーから、1990年代のシアトル系エスプレッソ、2000年代のサードウエーブ…と、どこまで盛り込めるか分かりませんが、そのような芸当が出来るのは歴史ある喫茶店ならではの遊びであり、面白い試みだと思います。
まとめ
味・立地・雰囲気といった現在の価値に加えて、ブランドをより強固な物にしていくために、思い出横丁にて長年営業されている本店をイメージリーダーとし、「新宿の歴史」を味方に付けるストーリーテリングを提案致します。
そして8月半ばに公式ホームページがリニューアルされるとのことで、様々なイベントやキャンペーン、ストーリーの打ち出しなどは、そのタイミングで一斉に行っていくことが、より効果を出せるのではと思います。