「小さなキズがつくった大きなきずな」
前崎 美香さん(富山県)
二〇一三年某月、主人の携帯によくない知らせが届いた。離れて住む義父に〝がん〞が見つかった。いつもの健康診断で、怪しいかげがあるとのことで精密検査を受けた結果、初期の胃がんという診断だった。その時、義父六十九歳、まだまだ若い。私たち夫婦にも、子供が二人、上の子五歳、下の子二歳とまだまだ手がかかる時期だった。
今まで自分の周りには、ありがたいことに〝がん〞という言葉は縁遠いもので、どこか遠いところの言葉だったのが、急に飛び込んできて、当時どう受け止めていいかわからなかった。
手術当日、病院の控室で手術のはじまりまで家族全員が集まり、その時を待った。上の子が、おぼえたてのひらがなで、じいちゃんに向けた『がんばって』のお手紙を渡すのに、もじもじしていた。それは、普段離れて暮らす時の流れが、小さな彼女をひきとめていたのかもしれない。
「おねえちゃん、がんばって渡しておいで。じいちゃんも今からがんばってくるんだよ」の言葉に、娘はじいちゃんに走りよって、がんばって書いたその手紙を渡した。
今から不安な手術に向かう義父は、突然の孫からの手紙に驚き、読んだ後、抑えていた不安だったか安堵だったかの思いがあふれ出し、
「こんな時にこんな手紙をもらったら・・・行ってくる」
手紙をにぎりしめ、孫をギュッと抱きしめて声を震わせていた。
数時間後、無事手術も終わり、主治医から患部を切り取った実物を見せられ、この部分が〝がん〞だと説明を受けた。素人の私たちには正常か異常かなど見分けることも出来ず、ただ生々しいホルモンのような肉片が目の前にあった。話では、胃の三分の二を切除したとのこと。肉眼では見てもわからないほどの、本当に初期のがんで、よく見つかったと主治医の先生も驚いていた。開腹手術ではなく内視鏡手術で行なわれたため、数か所小さい傷口だけが残っただけで回復も早かった。お風呂好きな義父には尚良かったと思う。退院後しばらくは、胃が小さくなったことによる食事制限、両親ともに大変だったと思う。
私たちもまた、まだ暫くは個々の生活を・・・と思っていたが、そんなこともあり、上の子が小学二年、下の子が年中にあがるタイミングで義父義母と一緒に暮らすため、十年慣れ親しんだ街を離れることにした。子供たちは仲良しの友達とそれぞれお別れをすることになり、新しい土地で新しい生活がスタートするのに、一言では言い表すことができないほど、それぞれ少々時間がかかった。
そして今また十年の月日が経ち、心配していた転移もなく、八十を過ぎた義父は私たち以上に元気で、今まで以上に健康に気を配り生活をしている。
幼かった子供たちも大学生、高校生となり人生の岐路のタイミングで高校合格に一緒に泣いたり、部活の応援に来てもらったり、畑の仕事を一緒にして収穫の楽しさを教えてもらったり、TVを見て一緒に笑ったりと、今では携帯でじいちゃんとメールのやりとりをしたり、私が知らないことも多いほど仲良しだ。
あの健康診断のおかげで得られた義父の健康と笑顔、そして私たち家族の新しい十年。定期的な健康診断を行うことの大切さと、早期発見、早期治療の重要性を本当に身近に感じた。
義父の体に残った小さな小さなキズは、私たち家族に大きな大きなきずなを生んだのだと感じずにはいられない。
「お義父さん、これからもいつまでも元気で長生きしてね」
