IT事業を展開する「株式会社フライヤー」様の導入事例を紹介します。
株式会社フライヤーは、2013年設立のIT系事業会社です。ビジネスパーソン向けの本の要約サービス「flier(フライヤー)」を提供しています。
同社でカスタマーサクセスを担当する久保氏、林屋氏は、「問い合わせ対応の逼迫」に直面していました。flierの法人導入数が大きく増えたことでエンドユーザーが急増、問い合わせも連動して増え、サポート体制のキャパシティを超えてしまう事態となりました。
「当時は、一日の業務の大半を問い合わせ対応が占めていました」林屋氏は語ります。今回はTayoriの導入背景やツールの選定ポイント、FAQ(よくあるご質問)の運用方法などを伺いました。
【目次】
- 月200件の問い合わせ、体制のキャパシティを超える事態に
- FAQシステム切り替え、社内デザイナーがTayoriを推したワケ
- 「川下から川上へ」FAQ改善が後押しした“根本的”プロダクト改善
- 問い合わせ数40%減――しかし、それだけが“正解”ではない
月200件の問い合わせ、体制のキャパシティを超える事態に
——久保さん、林屋さんの担当業務を教えてください。
久保氏:
私は株式会社フライヤーのCCO(Chief Customer Officer)として、flierのカスタマーサクセスを管掌しています。flierは2013年にサービス提供を開始し、累計ユーザー数は121万人を突破しました(2024年11月時点)。
flierのユーザーは、個人と法人で大きく二つに分かれています。法人の場合は、主に人事担当者とやり取りをしますが、問い合わせはエンドユーザーである従業員の方々から直接いただきます。
林屋氏:
私はflierのカスタマーサクセスとして、問い合わせ対応などのサポート業務を担当しています。問い合わせをされるエンドユーザーは個人・法人を問わないので、対応は一括して行っています。
——Tayori導入のきっかけとなった「課題」を教えてください。
久保氏:
「問い合わせ対応の逼迫」が緊急の課題でした。
背景には、エンドユーザーの飛躍的な増加があります。ありがたいことに、直近1~2年間でflierの法人導入数が大きく増え、それに伴いエンドユーザーが急増しました。ユーザーの増加に連動して問い合わせが増えるのは避けられないことですが、その増え幅があまりにも大きく、サポート体制のキャパシティを超えてしまう事態となりました。
林屋氏:
当時、問い合わせ対応は別のスタッフが他の業務と兼務して行っていましたが、このタイミングで私が専任として引き継ぎました。
問い合わせ対応が逼迫してしまうのは、グロース期のBtoE(※1)で陥りやすい課題なのかもしれません。エンドユーザーである従業員は、自らの意思でサービスを導入したわけではないので、「flierってなんだろう?」という理解度が低いところからご利用がスタートします。問い合わせ内容を見ても、基本的なサービス内容や操作方法に関するご質問が多かったです。
※1…Business to Employeeの略称。企業に所属する従業員向けに行うビジネスやサービス。
問い合わせ数は月200件にのぼり、私ともう一名の二人体制を敷きましたが、それでも一日の業務の大半を問い合わせ対応が占めてしまう状況でした。ただ、個人的にもっと問題視していたのは、「困っているユーザーが増えている」という客観的事実でした。私の負担を減らすよりも、ユーザーの困りごとを減らしたい気持ちのほうが強かったです。
問い合わせに関するデータを可視化できていなかったので、まずは、定量・定性の両面で現状分析を始めました。日々の問い合わせを整理し、ユーザーがなにで困っているかの解像度を高めることから取り掛かりました。
FAQシステム切り替え、社内デザイナーがTayoriを推したワケ
——Tayori導入前、すでにFAQシステムを使っていたそうですね。切り替えを検討されたのは何故でしょうか?
林屋氏:
Tayori導入前は外資系のFAQシステムを使っていました。機能面に大きな不満はありませんでしたが、日本向けのローカライズに難がありました。
例えば、問い合わせを「チケット」という単位で扱ったり、よくあるご質問が「FAQ」と書かれていたりし、決して意味が通じないわけではないのですが、人によってはパッと理解しづらい言葉が散見されました。flierのプロダクト内で「FAQ」と表記していたのを「よくあるご質問」に変えたという経緯もあり、文言も統一したかったです。
しかし、使っていたFAQシステムはそうした小回りの利く編集ができず、痒いところに手が届かない使用感を長らく抱いていました。問い合わせの増加も続いていたので、これを機により使いやすいFAQシステムへの切り替えを検討しました。
——Tayoriを選んだ「決め手」はなんですか?
久保氏:
実は前々からデザインチームがTayoriを利用していて、社内の口コミがきっかけで無料プランを使ってみることにしました。社内のUI/UXデザイナーが推したポイントでもあるのですが、Tayoriの決め手は「洗練されたシンプルさ」です。
Tayoriのシンプルさはflierのトンマナと似ており、ユーザーに一貫性のあるデザインを提供できると感じました。また、サイトの階層構造がシンプルでわかりやすく、視認性がとても良いですね。大項目から中項目、個別具体のFAQへの移動がスムーズに行えました。
林屋氏:
費用の観点でも、料金が安価で導入しやすかったです。カスタマーサポートには基本的に予算がつきづらいので、低コストで小さく始められるのは魅力的でした。
「川下から川上へ」FAQ改善が後押しした“根本的”プロダクト改善
——Tayoriへの移行はどのように進めましたか?
久保氏:
Tayoriへの移行自体に時間はかかりませんでしたが、その前に「FAQのスリム化」に力を入れました。というのも、これまでは情報の優先順位が決まっておらず、FAQがかなり乱立している状態でした。
情報量が多すぎると、多くのユーザーが求めている優先度の高い情報が埋もれてしまい、結果的にサイト離脱、問い合わせ発生につながってしまいます。実際、月200件の問い合わせのうち、約3割はFAQを見れば解決できるご質問が占めていました。
スリム化の手順として、まずは過去数ヶ月間の問い合わせ内容を一覧化し、コンタクトリーズン分析(※2)を行いました。ユーザーが抱えやすい問題を傾向として掴み、問い合わせ数に応じてFAQの優先順位を決めました。
※2…顧客の問い合わせ理由をカテゴライズすることで、問い合わせの傾向を掴む分析手法。
また、Google AnalyticsでFAQのページビューやスクロール量などを確認し、見られていないFAQは思い切って削除しました。最終的には、よく見られている重要なFAQを絞り込み、そのうえでTayoriへの移行を行いました。
TayoriもGoogle Analyticsと連携ができるので、移行後も引き続きアクセス状況を確認しています。FAQのスリム化によって、サイト全体の可読性・検索性を抜本的に高められました。
——FAQの運用で工夫していることはありますか?
林屋氏:
FAQサイトを見ていない問い合わせと、FAQサイトを見ても解決しなかった問い合わせは、分けて管理するように心掛けています。FAQサイト内に、「問題が解決しないお客さまへ」という風に専用フォームへの導線を設けており、そこからの問い合わせはFAQサイトを見ていると判別できます。
FAQサイトを見ても解決しなかった場合、どのFAQを見たのか、FAQ内のどこに改善点があるのか、そもそも欲しいFAQが載っていなかったのかなど、詳しく分析しています。既成のFAQに改善点があれば、文章を直したり、視覚的にわかりやすいよう画像を追加したりし、継続的にブラッシュアップしています。
——FAQの改善を進めた結果、プロダクトの改善にもつながったそうですね。
久保氏:
はい、flierでは開発とカスタマーサクセスのチーム間で、プロダクトの改善に向けたフィードバックサイクルを継続して行っています。基本的にはVOC(※3)を起点としたサイクルですが、それに加え、FAQの改善過程で明らかになった「ユーザーが迷いやすくて問い合わせの多い箇所」を開発チームに共有しました。
※3…Voice of Customerの略称。製品・サービスに寄せられる顧客の意見や感想、要望、クレームなどの総称。
FAQによる問い合わせの削減はあくまでも運営都合の視点で、カスタマーサクセスの本質はユーザーの成功体験を創出することにあります。その一端をFAQの改善が担い、結果としてプロダクトの改善を促せたのは予想外の成果でした。
林屋氏:
カスタマーサクセスの視点でFAQを見直すなかで、「プロダクトのこの仕様が改善されれば、そもそもユーザーは困らないのではないか」と問題の根本に意識が向くようになりました。
フィードバックをする際は、ユーザーからの問い合わせが多い箇所を具体的に示し、該当するFAQもセットで共有しています。例えば、FAQ全体の文言統一を行うなかで、プロダクト内に表記ゆれがあるのを発見しました。それがきっかけとなり、より伝わりやすい表現や導線を改めて考え、プロダクトのUI/UXを改善することができました。
特段、UXライティング(※4)やテクニカルライティング(※5)に精通しているわけではないのですが、FAQのわかりやすさ、伝わりやすさを突き詰めたことで、結果的にプロダクトにも良い影響を及ぼせました。
※4…Webサービスやアプリなどの製品において、ユーザー体験(UX)を向上させるためのライティング手法。
※5…製品に関する技術的な内容をわかりやすく伝えるライティング手法。
問い合わせ数40%減――しかし、それだけが“正解”ではない
——Tayoriの具体的な「成果」を教えてください。
林屋氏:
問い合わせ数が月200件あったところから施策をスタートさせ、Tayori導入前に行ったFAQのスリム化、プロダクトの改善などによって、月100件前後まで削減できました。
その後、TayoriでFAQサイトを構築したことで月60件前後まで落ち、さらに40%削減できました。TayoriによってFAQサイトの利便性が底上げされ、ユーザーの自己解決を促せたのだと思います。
運営リソースの観点でいうと、二人体制でも問い合わせ対応に追われていましたが、現在は私一人だけで済んでいます。負担が大きく軽減され、私の半日分のリソースで業務を完結できています。
また、FAQの改善によって、問い合わせ時のユーザー心理にも変化が生まれました。以前はFAQを見ても問題が解決しないことが多く、ご不満・ご不安を抱かれている問い合わせが度々届いていました。しかし、いまでは情報が探しやすくなり、問い合わせにつながったとしても穏やかなコミュニケーションを取れています。
FAQの品質はユーザーのサービス理解度や満足度に直結する、と頭では理解していても、数値の変化や生の声から改善を実感できたのは嬉しかったです。
——最後に、FAQを改善したいカスタマーサクセス・カスタマーサポートの担当者に向けて、メッセージをお願いします。
林屋氏:
今回の試行錯誤を経て、私のなかで大切な価値観が生まれました。それは、「お客様からの問い合わせは宝の山」ということです。
問い合わせは決して減らすことだけが正解ではありません。一連の改善アクションと矛盾しているように思えますが、減らす必要があるのは、FAQを見れば解決できるご質問です。そういったご質問は、自己解決できたほうがお客様の負担も減ります。
前提として、問い合わせまでされるお客様は実は少数派です。だからこそ、問い合わせは貴重なお便りであり、事業者に多くの気付きを与えてくれる宝といえます。『顧客体験の教科書』(ジョン・グッドマン 著、畑中伸介 訳)という本にも同様のことが書かれているのですが、知識と経験が合わさったことでとても腑に落ちました。
問い合わせの理由を分解し、改善点に気付き、FAQやプロダクトをアップデートさせ、お客様の問題を解決する。私はこの当たり前のサイクルを愚直に回していくことが一番重要だと考えています。今後もTayoriを通じて、flierをご利用いただいているお客様にとっての最高の成功体験を追求していきます。
株式会社フライヤー
執行役員CCO(Cheif Customer Officer) カスタマーエンゲージメントDiv ゼネラルマネジャー
久保 彩 氏(くぼ あや)
大学卒業後、大手メーカーでシステム開発の企画・開発・PJマネジメントに携わる。その後、総合系コンサルティング・ファームで大手企業の新規事業の企画・立上・展開を担いながらMBAを取得。2020年フライヤー新規事業担当執行役員に就任。2023年1月カスタマーサクセス責任者兼務。2024年3月CCO就任。
カスタマーエンゲージメントDiv カスタマーサクセスGr
林屋 成一郎 氏(はやしや せいいちろう)
前職の出版社で書籍のプロモーション・PR動画の企画編集やWebマーケティングなどに携わる。2022年よりフライヤーに参画。カスタマーサクセスGr にて、エンドユーザーのお問い合わせ対応などに従事。