
💡この記事でわかる「主要な3つのポイント」
- コンセプトは現場から生まれる——スタッフの声から「京都ではなく滋賀を選ぶ」という大胆な転換が生まれた
- 月1回の「ざっくばらん会議」から始まる自律的な組織づくり——発表の場を積み重ねることで現場が動き出す
- 顧客の声を翌日の改善につなげる——毎日のアンケート共有とAI活用で、声を放置しない仕組みをつくる
AI時代が進む中でも、顧客との接点の質が競争優位をつくっていく。そんな問題意識から、6月10日(水)に開催したTayori主催「Customer Support Conference 2026 Spring」のナレッジセッションでは、星野リゾートをゲストに迎えました。
「おもてなし」を第一線で実践し、現場主導の組織づくりに取り組んできた星野リゾートの経験は、カスタマーサポートに携わる方々にとっても参考になる点が多くあります。
登壇いただいたのは、星野リゾートで複数施設の総支配人を歴任し、現在は約40施設のオペレーション構築を担うユニットディレクターの唐澤武彦氏。モデレーターは、PR TIMESの執行役員兼Tayori事業部長・竹内一浩が務めました。
登壇者プロフィール:唐澤 武彦 氏(星野リゾート オペレーションマネジメントグループ ユニットディレクター)

オペレーションマネジメントグループ 第2オペレーショナルマネジメントユニット ユニットディレクター
1999年星野リゾートに入社。軽井沢ホテルブレストンコートにて、ウェディング事業の営業やコーディネイターを中心に行い、5年目にウェディング営業ユニットのディレクターへ立候補、着任する。その後5つほどユニットを経験後、10年目で総支配人に立候補。軽井沢星野エリアの総支配人から始まり、界熱海、ロテルド比叡、OMO京都エリアなどの総支配人を経験し、現在のオペレーショナルマネジメントグループに異動。第2オペレーショナルマネジメントユニットとして、リゾナーレ、OMO、BEB、LUCY、個性的な施設などのブランド、40施設のオペレーション構築を担当する。
「また来たい」体験はどう設計し、どう現場に根付いたのか
星野リゾートがロテルド比叡の運営を引き継いだ時、スタッフのほとんどはもともとその施設で働いていた方々でした。星野リゾートの文化や仕組みに慣れていないところからのスタートだったからこそ、ここでの変革のプロセスは特に示唆に富んでいます。
💡このセクションのポイント
コンセプトは押しつけない、現場から引き出す:スタッフ自身が語る「お客様の過ごし方」から、施設の軸が生まれた
「京都ではなく、滋賀を選ぶ」:競合との差別化を、現場の声をもとに大胆に設計した
点から線の接客へ:マルチタスクで働くサービスチームだからこそ、部署を超えてお客様の情報がつながる
唐澤氏が着任後すぐに取り組んだのは、スタッフ全員でロテルド比叡の新たなコンセプトを考えることでした。「お客様がこの施設でどんな過ごし方をしているか」をスタッフに聞いてみると、出てくる話のほとんどが「京都」ではなく「滋賀」のことだったそう。比叡山を琵琶湖側に下る「ゴールデンルート」の話が次々と出てきたと言います。
そこから導き出されたのが、「京都を競争軸にせず、滋賀の魅力を伝える」という、京都に構える施設としては一見大胆にも思えるコンセプト。比叡山ならではの厄払い体験や、琵琶湖・滋賀の発酵食文化を組み合わせた滞在設計へと、現場から積み上げられていきました。
最初は「京都を選ばない」という判断に戸惑いもあったものの、自分たちの意見から生まれたコンセプトだったことで、スタッフの納得感は高かったとのこと。その結果、マニュアル的な接客から、自分のこだわりを語るおせっかいな接客へと自然に変わっていったそうです。
また、星野リゾートの特徴でもあるサービスチーム(フロント・料飲・調理・清掃などをマルチにこなすチーム)の存在が、「点から線の接客」を可能にしました。部署ごとに分断していたお客様の情報がつながることで、滞在全体を通じた一貫した体験設計ができるようになったと言います。
現場が「自ら考えて動く」組織はどうつくられたのか
フラットな組織文化を根づかせるのは、一朝一夕にはいきません。唐澤氏が最初に手をつけたのは、「月1回の発表の場をつくること」でした。
💡このセクションのポイント
「ざっくばらん会議」が出発点:数値の発表から始め、徐々に課題提起・改善提案へと発展させた
役職に関係なく発表する場をつくる:若いスタッフが吸収力を発揮し、組織の変化が加速した
変化は積み重ね:フラットな組織文化が根づくまでに約1〜2年かかった
星野リゾートには「ざっくばらん会議(旧・戦況報告会)」という月1回の会議があります。各スタッフが担当業務の状況を発表するこの場を、まず活用することにしました。
最初は顧客満足度の数値を発表することから始め、徐々に課題の分析・解決策の提案・振り返りへと発展させていきました。現場中心で働いていたためプレゼンの経験がないスタッフも多かったものの、発表の機会を重ねることで、若いスタッフほど吸収が早く、役職を問わず対等に議論できる雰囲気が生まれていったと言います。
「あるタイミングで、若いスタッフが役職者も思わず唸るようなプレゼンをした瞬間がありました。そこから一気に雰囲気が変わっていった」と唐澤氏は振り返ります。
フラットな文化が完全に根づくまでには1〜2年ほどかかりましたが、その変化は一人ひとりの小さな積み重ねから生まれたものでした。現場が自分たちで考えてコンセプトをつくり、滞在の魅力を設計し、プロジェクトを回していく——そのサイクルが組織に定着していきました。
顧客の声を、翌日の改善につなげる仕組み
「毎日1000〜2000件の顧客の声が届く」という星野リゾートが、それをどう改善に活かしているのか。いわゆるVoCの反映については、カスタマーサポートの現場にも共通する問いではないでしょうか。
💡このセクションのポイント
毎朝、前日のアンケートを全スタッフへ共有:その日のうちに対応できるものはすぐ動く
ネガティブな内容は7種類ほどに分類:すべてを受け入れるのではなく、サービスとのミスマッチを見極める
AI活用で定性分析が格段に効率化:これまで手作業だったコメント分類・傾向把握をAIで対応
星野リゾートの各施設では、毎朝前日に届いた顧客満足度アンケートを抽出し、スタッフへメールで配信しているそうです。客室の故障など即日対応できるものはその日のうちに対処し、中期的な改善が必要なものは担当チームが時間をかけて取り組むのだとか。
ポイントは、すべての声を「改善すべき課題」として受け取るのではなく、ネガティブな声については約7種類に分類していることです。時には、自分たちが意図して提供しているサービスとミスマッチな意見であると判断する場合もあるそう。この見極めが、現場が消耗せず声に向き合い続けるための工夫でもあります。
また、四半期・半年単位での定性分析にはAIを活用しているとのこと。以前は膨大なコメントをスプレッドシートで手作業で分類していたものが、AIに一括で投げることで短時間で傾向が把握できるようになったのだとか。「エレベーターの待ち時間に関するコメントが昨年60件あったのが、今年は15件に減った」といった改善効果の可視化もすぐにわかるようになったと話してくれました。
印象的だったのは、「毎日一喜一憂することが大切」という唐澤氏の言葉。スタッフが出社したら必ずアンケートに目を通し、自分たちの接客がどう受け取られているかをリアルタイムで感じる。この文化があってこそ、改善が日常になっていくのだと話してくれました。
まとめ
本セッションを通じて浮かび上がったのは、「現場が自分ごとにしている組織は、外から変えようとしなくても動き出す」という一貫したメッセージでした。コンセプトも、改善の仕組みも、滞在の魅力づくりも、すべてが現場のスタッフから生まれています。そのために必要なのは、発表の場をつくること、顧客の声を毎日届けること、そして自分たちが考えたことが形になる経験を積み重ねることだと、唐澤氏の話は示していました。
最後に唐澤氏は参加者へこんなメッセージを伝えてくれました。
難しいことを一気にやろうとしなくていい。まず一つ、全員が必ず行うシンプルな言葉やアクションを決める。それをとことんやり切ることが、組織全体の大きな変化につながる
カスタマーサポートの現場で顧客接点の質を上げていきたいと考えている方にとって、何かしらのきっかけになれば幸いです。
なお、「Customer Support Conference 2026 Spring」は、6月18日(木)にアーカイブ配信を予定しています。ライブ配信をご覧いただけなかった方は、ぜひこちらをお楽しみください。
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