
💡この記事でわかる「主要な3つのポイント」
- カスタマーサポートの評価軸を「効率・体験・関係」の3軸で再定義し、コスト削減から脱却する
- 【タイミー】徹底的な数値化とUIへのAI組み込みで、売り上げでも価値を創出
- 【メルカリ】AI自動解決率向上への挑戦、VoCをリアルタイムで製品へ反映する未来を目指す
「カスタマーサポートはコストセンターである」。そんな認識がまだ根強く残る組織は少なくないかもしれません。でも、AIが急速に普及する今、カスタマーサポートの役割は大きく変わろうとしています。
6月10日(水)に開催したTayori主催「Customer Support Conference 2026 Spring」のケーススタディセッションでは、株式会社メルカリと株式会社タイミーのカスタマーサポート責任者が登壇。「カスタマーサポートはどこまで事業成長に踏み込めるか」という問いを軸に、各社のリアルな取り組みと展望が語られました。
登壇者プロフィール:大貫 竜平 氏 株式会社メルカリ Senior Manager, Partner Support

長年コンタクトセンター業界でコンタクトセンターを軸にした企業のCS、デジタルコミュニケーション、顧客ロイヤルティ、CXデザインの企画や運営など多数のプロジェクトに従事。ベルシステム24を経て2016年からVeeva JapanのProduct Marketingとパートナーアライアンス、2021年よりSTORES株式会社でシニアマネージャーとしてCSとBizOpsに従事。2024年チャネルトークでの執行役員を経て、2025年からメルカリにて現職。5年後のコンタクトセンター研究会メンバー。「月刊コールセンタージャパン」でCXに関する記事、コラム等の執筆。2021年、情報処理学会のデジタルプラクティス上でCXに関する論文発表。講演やワークショップなども多数実施。
登壇者プロフィール:片桐 俊之 氏 株式会社タイミー カスタマーサポート担当 執行役員

大学卒業後、大手コールセンター会社を経て、EC・メーカー業の事業社にてCS部門を立ち上げたのち、フルフィルメント部門の責任者を経験。2015年4月:エウレカに入社。『Pairs』のカスタマーサポートおよびTrust and Safety(審査業務含む)の構築・運営・管理・育成に従事し、日本における出会いの文化改革に貢献。2021年8月:タイミーに入社。同年10月よりカスタマーサポート部の部長に就任。2023年11月:部格から本部格に組織を変え、本部長に就く。2025年11月:カスタマーサポート担当執行役員に就任。約350名のCSメンバーと共に超成長をするタイミーの屋台骨を支えている。
各社の現在地とカスタマーサポートの取り組み
最初のテーマは、株式会社メルカリ・株式会社タイミー両社のカスタマーサポート組織における現在の立ち位置や、重要視している戦略、そして具体的な取り組みについて。
💡このセクションのポイント
メルカリの現在地:多様なCX動線からVoCデータを収集し、プロダクト改善(バックログ)へリアルタイムに反映するサイクルを構築中。
タイミーの現在地:成長ベンチャー特有の「トップライン最優先」の文化を乗り越え、VoC起点の定常的なフィードバックサイクルを確立。
成果:タイミーはカスタマーサポートコスト約50%削減とファネル改善を実現。
メルカリ:VoCのリアルタイム反映と、AI自動解決率向上への挑戦
大貫氏は、メルカリのカスタマーサポートの最重要テーマとして「VoC(お客様の声)をリアルタイムでサービス・プロダクトに反映していく構想をいかに実現するか」を挙げました。
カスタマーサポートの接点だけでなく、AI自動化が進むCX(顧客体験)動線上の多様なタッチポイントから定性・定量データを収集し、プロダクトバックログへ集約・優先順位づけするサイクルを構築することが現在の立ち位置だといいます。
顧客対応面では、これまでフォームとメール対応が中心だったところにチャットやAIエージェントを本格導入するフェーズに突入しており、今後はさらにAIの自動解決率を向上させるための各種取り組みにフォーカスしているとのことです。
タイミー:VoC起点の定常的なフィードバックサイクルを実現
片桐氏は、タイミーのカスタマーサポートの戦略テーマを「困りごとなく、タイミーの価値を得られる世界の実現」と定義。現在は、VoC起点の定常的なフィードバックサイクルが機能するフェーズに達したと語りました。
成長ベンチャー特有の「トップライン最優先」の文化の中で、カスタマーサポートからの課題提起は「大事だよね、でも今ではない」と先送りされ続けていたといいます。
そこで取り組んだのが、改善インパクトと蓋然性の徹底的な可視化です。カスタマーサポート以外の人が見ても「取り組むべきこと」とわかるレベルまで、課題・解決策・ROI(投資対効果)を数字で語る働きかけを粘り強く続けました。
結果として、カスタマーサポートのコスト約50%削減とファネル改善を実現し、年間売り上げでも相当額の価値を創出するに至ったとのことです。
AI時代、カスタマーサポートの価値軸はどう変わるか
続いてのテーマは、本セッションの核心でもある「AIによってカスタマーサポートの価値軸がどう変化していくか」について。すでに独自の「AI駆動型CS」を実践している両社が、この変化をどのように捉え、どのように価値を再定義しているのか、その本質についてさらに深く掘り下げていきます。
💡このセクションのポイント
3つの価値軸へのシフト:AIによる効率化で「投資余力」を生み出し、「効率」「体験」「関係」の3軸を統合的に設計する。
UIへのAIエージェント組み込み:問い合わせ窓口としてではなく、サービスUI上でAIが常時伴走し、ChatGPTやGeminiに話しかける感覚で自己解決できる世界を目指す。
サイレントカスタマーの救済:問い合わせのハードルを下げることで、声を上げない顧客を救い、インサイト(顧客の本音)を約4倍に増やす。
「効率・体験・関係」の3軸で再定義する
大貫氏は、今後のAI時代におけるカスタマーサポートの経営価値について、これまでの「コスト削減」という一軸の評価から脱却し、「効率価値」「体験価値」「関係価値」の3軸で再定義する考え方を紹介しました。各価値軸のKPIも大きく変化します。
効率価値は「減らす」ことから、AI一次完結率などの「価値ある解決の割合」へ。体験価値は「対応後の満足度」から、摩擦ゼロ率を意識した「接触前の体験設計」へ。関係価値は「悪い体験をなくす」ことから、LTV変化を見る「次の取引を生む」ための評価へと移行します。
大貫氏は「AIによる効率化が進むからこそ、体験や関係価値へ振り向ける『投資余力』が生まれる」とまとめ、片桐氏も「ようやくカスタマーサポート本来の本質的な価値に向き合えるタイミングが来た」と強く共感しました。
タイミーが描く次世代のカスタマーサポート:「サイレントカスタマー」を能動的に救う
片桐氏は、AI時代のカスタマーサポートのあり方を「受け身のCSからの脱却」と表現しました。困っていても声を上げられない「サイレントカスタマー」を能動的に救うため、AIエージェントを窓口ではなく「サービスのUI自体に組み込む」アプローチを提示。UI上でAIが常時伴走し、問題を特定・解決できる体験を実現することで、そもそも問題が起こらない世界を目指しているといいます。
大貫氏はこれを受けて、「AIエージェントの導入によって問い合わせのハードルが下がり、インサイトが約4倍に増える」という知見を共有。サイレントカスタマーとの接点を得ることが、次の改善サイクルを回す起点になると補足しました。
変革を推進するために—社内外への理解浸透
変革を実現するうえで欠かせないのが、社内外への理解浸透です。お二人のアプローチにも、それぞれのリアルが滲みました。
他部門・経営層向け:開発リソースやセキュリティのハードルを乗り越えるため、「ROI」を徹底的に数字で証明し続ける。
現場・メンバー向け:AI導入は定型業務から解放され、新たなスキルを身につける「リスキリングのチャンス」であるというキャリアビジョンを提示する。
組織マネジメント:AI化によって生まれた余力リソースを新規事業の垂直立ち上げに配置し、顧客視点を持ったコア人材として活躍させる。
大貫氏は、組織内に「AIの導入は手段であり、目的ではない」という認識を徹底させるため、マネージャー層を通じてメンバーへ粘り強くメッセージを伝え続けていると言います。インフラを整えたその先に、「自分たちは顧客にどのような価値を提供したいのか、という本質的な問いに向き合うこと」の大切さを改めて強調しました。
また、片桐氏は、メッセージを届けるべき対象を「外(他部門・経営層)」と「中(カスタマーサポートメンバー)」に分けて戦略的にアプローチしています。他部門や経営層に対しては、ROIを数字で証明し続ける重要性を指摘。同時に現場に対しては、「AIの導入は、定型業務から解放されて新たなスキル(武器)を身につけるチャンスである」というキャリアのビジョンを提示しています。実際にAI化によって生まれた余力リソースを新規事業の垂直立ち上げに配置し、顧客視点を持ったコア人材として活躍させるなど、組織の成長とメンバーのリスキリングを地続きで捉えるマネジメントのあり方を示しました。
まとめ
本セッションを通じて浮かび上がったのは、カスタマーサポートの価値がコスト削減という一軸から、効率・体験・関係という3軸の統合設計へと移行しつつあるという二社の共通認識でした。
アプローチこそ異なれど、「VoCを事業成長に直結させるサイクルをつくること」「AIを手段として活用しながら、顧客体験の本質を問い続けること」という根幹は一致していました。
「カスタマーサポートはどこまで事業成長に踏み込めるか」。その問いに正面から向き合い、自分たちの手でカスタマーサポートの新しいあり方を作り出していこうとするお二人の言葉が、私たち自身がカスタマーサポートという仕事の可能性を改めて考え直すきっかけになりました。
なお、「Customer Support Conference 2026 Spring」は、6月18日(木)にアーカイブ配信を予定しています。ライブ配信をご覧いただけなかった方は、ぜひこちらをお楽しみください。
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