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HRM(人的資源管理)とは何?意味や役割、具体的な実践例をわかりやすく解説

HRM(人的資源管理)とは何?意味や役割、具体的な実践例をわかりやすく解説

企業の競争力を左右する重要な要素として、人材の活用と育成に注目が集まっています。そこで鍵となるのが「HRM(Human Resource Management:人的資源管理)」です。従来の人事管理とは異なり、HRMは従業員を「コスト」ではなく「資源」として捉え、戦略的に活用・育成することで組織の成長を促進します。本記事では、HRMの基本的な考え方から役割、具体的な実践例、理論的モデルまでをわかりやすく解説します。人材を企業の最大の資産として活かすためのヒントを探りましょう。

目次

  1. HRM(Human Resource Management)とは何?
  2. HRMは人事部門だけが考える課題ではない
  3. マネジメントでのHRMの役割と位置づけ
  4. HRMの具体的な実践例
  5. HRMにおける5つのモデル
  6. HRMの登場前に用いられていたPMとはどんな手法?
  7. まとめ

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HRM(Human Resource Management)とは何?

HRM(Human Resource Management)とは、「人的資源管理」と訳され、企業や組織において人材を戦略的な資源として捉え、効果的に活用・育成・管理するための体系的なアプローチを指します。

従来の人事管理(Personnel Management:PM)が給与計算や勤怠管理といった管理業務に重点を置いていたのに対し、HRMは人材を企業の競争優位性を生み出す重要な「資源」と位置づけ、経営戦略と連動した人材戦略の策定・実行を目指します。

HRMの主な目的は、組織の目標達成に必要な能力や意欲を持った人材を適切に採用・配置・育成・評価・処遇することで、個人の成長と組織のパフォーマンス向上を同時に実現することにあります。具体的には、採用・育成・評価・報酬・労使関係などの人事施策を通じて、従業員のモチベーションと生産性を高め、組織全体の競争力強化を図ります。

近年ではデジタル技術の進化により、データに基づいた科学的なHRMの実践(People Analytics)も広がりつつあり、より効果的な人材戦略の立案が可能になっています。人材を「コスト」ではなく「投資」と捉える視点がHRMの本質であり、人材を通じた持続的な企業価値の向上を目指す考え方といえるでしょう。

 

HRMは人事部門だけが考える課題ではない

HRMは従来、人事部門の専門的な業務領域と考えられがちでしたが、今日の組織運営においては、人事部門だけでなく経営層や現場のマネージャーを含めた組織全体で取り組むべき重要な課題となっています。なぜHRMが人事部門だけの問題ではなくなったのか、その背景と理由を見ていきましょう。

まず、経営環境の急速な変化が大きな要因として挙げられます。デジタル化やグローバル化の進展、働き方の多様化などにより、企業は常に変化に適応できる柔軟な組織体制と人材育成が求められるようになりました。このような状況下では、人事部門だけで全ての人材課題に対応することは困難であり、組織全体での取り組みが不可欠となっています。

また、経営戦略と人材戦略の統合の必要性も高まっています。企業の競争優位性を確立するためには、経営戦略を実現できる人材の確保・育成が不可欠です。そのため、経営層は人材戦略を経営戦略の重要な一部として捉え、積極的に関与する必要があります。実際、多くの先進企業では、CEOやCOOが人材戦略に深く関わるケースが増えています。

さらに、現場マネージャーの役割も変化しています。日々の業務管理だけでなく、チームメンバーの育成・評価・モチベーション向上といったHRMの実践が、マネージャーの重要な責務となっています。現場マネージャーは従業員と直接接する機会が多いため、個々の能力や適性を最も把握しており、効果的な人材育成を行う上で重要な役割を担っています。

加えて、個々の従業員のセルフマネジメント能力の重要性も高まっています。変化の激しい環境では、自らのキャリアを主体的に考え、必要なスキルを獲得していく姿勢が求められます。そのため、従業員自身もHRMの重要な当事者となっているのです。

このように、HRMは組織の様々なレベル(経営層・人事部門・現場マネージャー・個々の従業員)が協働して取り組むべき課題となっています。人事部門はHRMの専門知識や制度設計を担いつつも、他の部門や従業員と連携し、組織全体でHRMを推進する「HRMパートナー」としての役割が求められているのです。

 

マネジメントでのHRMの役割と位置づけ

企業や組織のマネジメントにおいて、HRMは重要な位置を占めています。ここでは、HRMを中心に、様々なレベルのマネジメントの特徴と役割について解説します。

人材マネジメント(HRM)

人材マネジメント(HRM)は、組織における人的資源を戦略的に活用し、企業価値の向上につなげるための包括的な取り組みです。

HRMの主な特徴は、人材を単なる「コスト」ではなく、価値を生み出す「資源」として捉える点にあります。従業員一人ひとりの能力や潜在力を最大限に引き出し、組織の目標達成に貢献できるよう支援します。

具体的な役割としては、採用・配置・育成・評価・報酬などの人事施策を通じて、組織に必要な人材を確保し、その能力を高め、適切に評価・処遇することが挙げられます。また、従業員のモチベーションや組織へのコミットメントを高めることも重要な役割です。

HRMの目的は、個人の成長と組織の成果を同時に実現することにあります。従業員が自らの能力を発揮し、やりがいを感じながら働ける環境を整えることで、組織全体のパフォーマンス向上を図ります。

組織マネジメント

組織マネジメントは、組織全体の設計や運営に関わるマネジメントであり、HRMと密接に関連しています。

組織マネジメントの主な役割は、組織構造や制度の設計、部門間の連携促進、組織文化の形成・維持などです。これらを通じて、組織全体の効率性や柔軟性を高め、環境変化への適応力を強化します。

HRMとの関連では、組織の戦略や目標に合致した人材配置や育成計画の策定が重要となります。例えば、新規事業の立ち上げに際しては、必要なスキルを持った人材の配置や育成を計画的に行う必要があります。

また、組織マネジメントでは、多様な人材が活躍できる包括的な組織文化の醸成や、部門を超えた知識・情報の共有を促進することも重要です。これにより、組織全体の創造性やイノベーション能力を高めることができます。

ミクロマネジメント

ミクロマネジメントは、部署やチームレベルでの日常的なマネジメント活動を指します。現場のマネージャーやリーダーが中心となって行います。

ミクロマネジメントの主な役割は、業務の割り当てや進捗管理、メンバーの指導・育成、チーム内のコミュニケーション促進などです。チームの目標達成に向けて、メンバー一人ひとりの強みを活かし、効果的に協働できる環境を整えます。

HRMとの関連では、現場マネージャーは人材育成の最前線に立つ存在といえます。日々の業務を通じたOJT(On-the-Job Training)や、定期的なフィードバック、キャリア支援などを通じて、メンバーの成長を促進します。

また、現場マネージャーは、組織のHRM方針や制度を実際に運用する役割も担っています。例えば、人事評価制度を公正に運用したり、組織の価値観や行動規範を体現したりすることで、HRMの効果を高める重要な役割を果たします。

セルフマネジメント

セルフマネジメントは、個人が自らの行動や成長を主体的に管理・コントロールすることを指します。変化の激しい現代社会では、従業員一人ひとりのセルフマネジメント能力がますます重要になっています。

セルフマネジメントの主な要素には、自己の強み・弱みの理解、目標設定とその達成に向けた行動計画の立案、時間管理、ストレス管理、継続的な学習・成長などがあります。これらを通じて、個人は自らのパフォーマンスを高め、キャリア形成を進めることができます。

HRMとの関連では、組織は従業員のセルフマネジメント能力を支援・促進する役割を担っています。例えば、キャリア開発支援や学習機会の提供、フィードバックの仕組みづくりなどが重要です。

従業員のセルフマネジメントを促進する仕組みづくりとは

従業員のセルフマネジメントを効果的に促進するためには、組織として適切な仕組みづくりが不可欠です。以下にその主な要素を紹介します。

まず、明確な目標設定と評価の仕組みが重要です。組織の目標を踏まえつつ、個人レベルでの具体的な目標設定を支援し、定期的な振り返りや評価の機会を設けることで、従業員の自律的な行動を促します。目標管理制度(MBO)やOKR(Objectives and Key Results)などの手法が活用されています。

次に、学習と成長の機会の提供が挙げられます。自己啓発支援制度、社内外の研修プログラム、オンライン学習プラットフォームの提供など、従業員が自らのスキルやキャリアを発展させるための多様な学習機会を用意することが重要です。

また、フィードバックの文化構築も大切です。上司からの一方的な評価だけでなく、同僚間のピアフィードバックや360度評価など、多角的なフィードバックを通じて自己認識を深める機会を提供します。これにより、従業員は自らの強みや改善点をより客観的に把握できるようになります。

さらに、自律性を尊重する組織文化や柔軟な働き方の導入も効果的です。リモートワークやフレックスタイム制など、時間や場所の制約を緩和することで、従業員が自らの働き方をコントロールする経験を積むことができます。

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HRMの具体的な実践例

HRMの理論を実際のビジネス現場でどのように活用するか、具体的な実践例を見ていきましょう。以下では、多くの企業で取り入れられている効果的なHRM施策を紹介します。

タレントマネジメントシステムの導入

タレントマネジメントとは、組織内の優秀な人材(タレント)を戦略的に発掘・育成・配置・維持するための包括的なアプローチです。多くの企業では、このプロセスを効率化・可視化するためのタレントマネジメントシステムを導入しています。

具体的な実践例としては、グローバル製薬企業のノバルティスが挙げられます。同社では、従業員のスキル、経験、キャリア志向などの情報を一元管理するタレントマネジメントシステムを導入し、グローバル規模での適材適所の人材配置や、戦略的な後継者育成計画に活用しています。

このシステムにより、従業員は自身のキャリア目標や獲得したいスキルを登録でき、上司や人事部門はそれらの情報をもとに個別の育成計画を立案します。また、社内公募ポジションとのマッチングも行われ、組織全体での人材の最適配置が促進されています。

このような取り組みにより、従業員のエンゲージメント向上と優秀人材の定着率改善、さらには戦略的な人材育成による組織力の強化が実現されています。

データ駆動型のHRM(People Analytics)

近年、HR領域でも「データ駆動型」のアプローチが注目されています。従来の経験や勘に頼った人事判断ではなく、客観的なデータ分析に基づいて人材施策を立案・実行する「People Analytics(ピープルアナリティクス)」が広がっています。

Google(Alphabet)はこの分野のパイオニアとして知られています。同社の「Project Oxygen」では、マネージャーの行動と部下の生産性・満足度の関連性を大量のデータから分析し、「良いマネージャーの8つの特性」を特定しました。この知見をマネージャー研修や評価制度に反映させることで、組織全体のマネジメント品質を向上させています。

また、採用プロセスにおいても、応募者のスキルや経験だけでなく、組織適合性や将来的な成功可能性を予測するアルゴリズムを活用する企業が増えています。IBM、Unilever、HILTONなどのグローバル企業では、AIを活用した採用スクリーニングや面接評価の標準化により、採用の質と効率を同時に高める取り組みを行っています。

このようなデータ駆動型のアプローチにより、より客観的かつ効果的な人事判断が可能になり、組織パフォーマンスの向上につながっています。

エンゲージメント向上施策の体系的実施

従業員エンゲージメント(組織への愛着や仕事への熱意)を高めることは、生産性向上や離職率低減に直結する重要なHRM課題です。多くの企業では、エンゲージメント向上のための体系的な取り組みを実施しています。

例えば、Salesforceでは「1-1-1モデル」という社会貢献の仕組みを導入しています。これは、企業の時間(従業員の就業時間の1%をボランティア活動に)、製品(製品の1%を非営利団体に)、株式(株式の1%を財団を通じて社会に)を社会に還元するというモデルです。この取り組みにより、従業員は自社の社会的価値を実感し、より高いエンゲージメントを持って働くことができています。

また、Microsoftでは「Growth Mindset(成長マインドセット)」の文化を全社的に推進しています。失敗を恐れず挑戦することを奨励し、「知っていること」より「学ぶ意欲」を重視する文化を醸成することで、従業員の自律的な成長とエンゲージメント向上を図っています。

さらに、多くの企業ではパルスサーベイ(短い間隔で行う簡易的な従業員調査)を定期的に実施し、エンゲージメントの状態をリアルタイムで把握・対応する取り組みも広がっています。Adobeなどでは、四半期ごとのパルスサーベイの結果をもとに、部門ごとの具体的な改善アクションを迅速に実行しています。

 

HRMにおける5つのモデル

HRMの理論と実践は、様々な研究者や組織によって異なるモデルとして提唱されてきました。ここでは、代表的な5つのモデルについて解説します。

①ハーバード・グループのモデル

ハーバード・ビジネススクールの研究者たちによって提唱されたこのモデルは、HRMの最も影響力のある枠組みの一つです。このモデルの特徴は、HRMを単なる人事施策の集合ではなく、様々なステークホルダーの利害を調整する総合的なマネジメントシステムとして捉える点にあります。

ハーバード・モデルでは、以下の4つの主要なHRM領域が提示されています:

  1. 従業員の影響力(参加や意思決定への関与の程度)
  2. 人的資源のフロー(採用、配置、昇進、離職など)
  3. 報酬システム(金銭的・非金銭的報酬)
  4. 労働システム(仕事の設計や労働環境)

このモデルの重要な特徴は、短期的な経済的成果だけでなく、従業員の福祉や社会的厚生など、長期的・多角的な成果を重視する点です。また、状況要因(事業戦略、労働市場など)とステークホルダーの利害のバランスを取りながらHRM施策を設計する必要性を強調しています。

②ミシガン・グループのモデル

ミシガン大学の研究者たちによって開発されたこのモデルは、より戦略的な視点からHRMを捉えています。組織の戦略と構造に適合したHRMシステムの設計を重視し、「戦略的適合」の概念を強調しています。

ミシガン・モデルでは、HRMの主要な構成要素として以下の4つを挙げています:

  1. 選抜(適切な人材の採用・配置)
  2. 評価(パフォーマンス管理と評価)
  3. 報酬(業績に基づく報酬制度)
  4. 育成(必要なスキルと知識の開発)

このモデルの特徴は、これらのHRM施策を企業の戦略目標達成のための手段として位置づけ、効率性と戦略的整合性を重視する点にあります。ハーバード・モデルが多様なステークホルダーの利害バランスを強調するのに対し、ミシガン・モデルはより企業の経済的成果に焦点を当てています。

③高業績HRM(PIRK理論)

PIRK理論は、高業績をもたらすHRM施策の要素を4つの次元で説明するモデルです。PIRKとは、Power(権限)、Information(情報)、Rewards(報酬)、Knowledge(知識)の頭文字を取ったものです。

このモデルでは、従業員に以下の4要素を提供することで、高いモチベーションとパフォーマンスを引き出せるとしています:

  1. Power:意思決定への参加や自律性の付与
  2. Information:業績や戦略に関する情報共有
  3. Rewards:貢献に応じた適切な報酬
  4. Knowledge:スキルや能力開発の機会

PIRK理論の特徴は、これら4つの要素が互いに補完し合い、相乗効果を生み出すという点です。例えば、権限(Power)だけを与えても、必要な知識(Knowledge)がなければ効果的な意思決定はできません。同様に、情報(Information)があっても、それに基づいて行動する権限がなければ活かせません。

このモデルは特に、従業員の内発的動機づけと組織コミットメントを高める上で有効とされています。

④高業績HRM(AMO理論)

AMO理論は、従業員のパフォーマンスが3つの要素の掛け合わせによって決まるという考え方に基づいています。AMOとは、Ability(能力)、Motivation(動機づけ)、Opportunity(機会)の頭文字です。

このモデルによれば、高いパフォーマンスを実現するためには、従業員が:

  1. 必要な能力(Ability)を持っていること
  2. 高いモチベーション(Motivation)を持っていること
  3. 能力を発揮する機会(Opportunity)があること

の3つの条件が揃う必要があります。

AMO理論に基づくHRM施策としては、例えば以下のようなものが挙げられます:

  • Ability向上:選抜的採用、計画的な研修・育成、キャリア開発支援
  • Motivation向上:適切な報酬制度、評価・フィードバック、職場環境の整備
  • Opportunity提供:参加型の職場設計、権限委譲、チームワークの促進

このモデルの特徴は、3つの要素が掛け算的に作用するという点です。つまり、どれか一つでも欠けると、全体のパフォーマンスは大きく低下してしまいます。そのため、バランスの取れたHRM施策の設計が重要となります。

⑤タレントマネジメント

タレントマネジメントは、組織の成功に不可欠な優秀な人材(タレント)を戦略的に獲得・育成・配置・維持するための体系的なアプローチです。従来のHRMよりも、「組織の成功に特に重要な人材」に焦点を当てている点が特徴です。

タレントマネジメントの主要なプロセスとしては、以下のようなものがあります:

  1. タレント獲得:優秀な人材の採用と組織への統合
  2. タレント評価:能力・潜在性・パフォーマンスの多角的評価
  3. タレント開発:戦略的な育成プログラムとキャリアパスの設計
  4. タレント配置:適材適所の配置と戦略的ローテーション
  5. タレント維持:エンゲージメント向上と離職防止策

このモデルの特徴は、「全ての従業員が同等に重要」とする従来のHRMアプローチとは異なり、戦略的に重要なポジションとそれを担う人材に集中的に投資する点にあります。ただし、近年では「インクルーシブ・タレントマネジメント」という考え方も広がりつつあり、全ての従業員の潜在能力を最大限に引き出す包括的なアプローチも重視されています。

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HRMの登場前に用いられていたPMとはどんな手法?

HRMの概念が広がる前は、「PM(Personnel Management:人事労務管理)」という考え方が主流でした。ここでは、PMの特徴と課題、そしてPMからHRMへの転換における変化について解説します。

PM(Personal Management)とは

PM(Personnel Management)とは、従業員の雇用や労働条件の管理、給与計算、勤怠管理、福利厚生など、主に労務管理的な側面に焦点を当てた人事管理の手法です。1920年代から1970年代頃まで、多くの企業で採用されていた考え方です。

PMの主な特徴として、以下の点が挙げられます:

  1. 管理的アプローチ:従業員を管理・監督の対象として捉え、規則やルールに基づいた統制を重視します。労働者の生産性を高めるための監視や管理が中心となります。
  2. 短期的視点:日々の業務運営をスムーズに行うための短期的な視点が中心で、長期的な人材育成や戦略的な人材活用の視点は比較的弱いといえます。
  3. 業務効率重視:コスト削減や業務効率の向上を主な目的とし、標準化された手続きや制度の運用に力点が置かれます。
  4. 専門部署による集中管理:人事部門が集中的に人事施策を立案・実行し、現場のマネージャーは主に業務管理を担当するという役割分担が一般的でした。
  5. 労使関係重視:労働組合との交渉や労使紛争の解決など、労使関係の管理に大きな比重が置かれていました。

PMの基本的な機能としては、採用・配置・教育訓練・評価・報酬・労務管理などがありますが、これらは主に「人件費」を管理するためのプロセスとして位置づけられていました。従業員は「コスト要因」として捉えられ、その管理が中心課題でした。

PMの課題とは

PMのアプローチには、時代の変化とともにいくつかの課題が顕在化してきました。主な課題としては以下のようなものが挙げられます:

  1. 戦略的視点の欠如:PMは日常の人事管理業務を効率的に行うことを重視するあまり、企業の長期的な経営戦略との連動が弱い傾向がありました。そのため、事業戦略の実現に必要な人材の確保・育成が計画的に行われないケースが多く見られました。
  2. 人材の潜在能力の活用不足:従業員を「管理の対象」と捉える傾向が強く、個々の能力や潜在力を積極的に引き出し、活用するという視点が不足していました。特に、創造性やイノベーションが求められる知識社会においては、この点が大きな課題となりました。
  3. モチベーション向上の視点不足:規則や手続きの遵守を重視するあまり、従業員のモチベーションや自律性を高める視点が弱く、結果として組織全体の活力低下につながるケースがありました。
  4. 環境変化への適応力不足:PMは安定した環境下での効率的な人事管理を前提としており、急速な環境変化や不確実性の高まりに対応する柔軟性に欠ける面がありました。
  5. 縦割り組織の弊害:人事部門が集中的に人事管理を担う体制では、現場の実態やニーズとの乖離が生じやすく、実効性の高い人材施策の立案・実行が難しいという問題がありました。

これらの課題は、特にグローバル化や技術革新の進展、知識経済への移行などの環境変化によって顕著になりました。従来の管理的・標準的なPMのアプローチでは、変化の激しい環境での競争優位性の確立や、知識労働者の活用に十分に対応できなくなってきたのです。

そこで登場したのが、人材を「コスト」ではなく「資源」として捉え、戦略的に活用するHRMの考え方です。PMからHRMへの転換は、単なる呼称の変更ではなく、人材に対する根本的な考え方や取り組み方の転換を意味していました。

PMがHRMに転換した際の最大の変化とは

PMからHRMへの転換は、1980年代から1990年代にかけて進行しました。この転換における最大の変化は、「人材を管理の対象から戦略的資源へと捉え直した」ことにあります。以下に、その具体的な変化の内容を見ていきましょう。

考え方の転換:従業員を「コスト要因」から「価値創造の源泉」へと捉え直しました。PMでは人件費の管理と労務問題の処理が中心でしたが、HRMでは人材を通じた競争優位性の構築が焦点となりました。

戦略との連動:人事施策と経営戦略の連動が重視されるようになりました。PMが比較的独立した機能として運営されていたのに対し、HRMでは経営戦略の実現に貢献する戦略的パートナーとしての役割が求められるようになりました。

責任の分散:人事部門の専門家だけでなく、経営層や現場のマネージャーも人材マネジメントの重要な担い手と位置づけられるようになりました。特に、日常的な人材育成や評価においては、直属のマネージャーの役割が重視されるようになりました。

長期的視点の重視:短期的な効率性だけでなく、長期的な組織能力の構築が重視されるようになりました。人材育成や組織開発などへの投資が、将来の競争力につながるという認識が広がりました。

個人の尊重と自律性:標準化された管理から、個々の能力や適性を尊重し、自律的な成長を促す支援型のアプローチへと転換しました。従業員のエンゲージメントや内発的動機づけが重視されるようになりました。

以下の表は、PM、HRM、そして近年注目されているSHRM(Strategic Human Resource Management:戦略的人的資源管理)の比較をまとめたものです:

項目 PM<br>(Personnel Management) HRM<br>(Human Resource Management) SHRM<br>(Strategic HRM)
主な時代 1920年代〜1970年代 1980年代〜1990年代 1990年代後半〜現在
人材観 コスト要因 価値を生み出す資源 持続的競争優位性の源泉
焦点 労務管理、規則の遵守 人材の活用と育成 事業戦略と連動した人材戦略
期間 短期的 中長期的 長期的・戦略的
主体 人事部門が集中管理 人事部門と現場の協働 経営層・人事・現場の統合的取り組み
施策の特徴 標準化・画一的 柔軟性・個別対応 戦略的整合性と内的一貫性
評価基準 コスト効率、規則遵守 従業員のモチベーション、能力向上 戦略目標の達成、組織パフォーマンス
理論的基盤 科学的管理法、官僚制理論 人間関係論、行動科学 リソースベースト・ビュー、システム理論

この表からも分かるように、PMからHRM、そしてSHRMへと発展する過程で、人材に対する考え方や取り組み方は大きく変化してきました。現代の組織においては、単なる人事管理ではなく、戦略的な人材マネジメントの視点がますます重要になっています。

 

まとめ

HRM(Human Resource Management:人的資源管理)は、従業員を単なる「コスト」ではなく、価値を創造する「資源」として捉え、戦略的に活用・育成するアプローチです。従来のPM(Personnel Management)が管理・統制を重視していたのに対し、HRMは人材の能力を最大限に引き出し、組織の競争力向上につなげることを目指しています。

HRMは人事部門だけの課題ではなく、経営層・人事部門・現場マネージャー・従業員自身が協働して取り組むべき重要課題です。特に現代のビジネス環境では、従業員のセルフマネジメント能力も重視されており、それを支援する仕組みづくりが組織に求められています。

HRMの実践例としては、タレントマネジメントシステムの導入、データ駆動型のHRM(People Analytics)、エンゲージメント向上施策の体系的実施などが挙げられます。これらの取り組みを通じて、従業員のモチベーションと能力を高め、組織のパフォーマンス向上につなげることができます。

また、HRMには様々な理論モデルがあり、ハーバード・グループのモデル、ミシガン・グループのモデル、PIRK理論、AMO理論、タレントマネジメントなど、それぞれ異なる視点から人材の活用・育成のあり方を提示しています。

PMからHRMへの転換は、単なる呼称の変更ではなく、人材に対する根本的な考え方の転換でした。人材を「管理の対象」から「価値創造の源泉」へと捉え直し、戦略との連動や長期的視点、個人の尊重と自律性を重視するアプローチへと変化したのです。

変化の激しい現代ビジネス環境において、HRMの重要性はますます高まっています。人材を通じた持続的な競争優位性の構築のためには、戦略的な視点からHRMを捉え、組織全体で取り組んでいくことが不可欠です。効果的なHRM施策の立案と実行を通じて、個人の成長と組織の成功を同時に実現することが、これからの企業に求められています。

効果的なHRMの実践には、データの収集・分析や従業員とのコミュニケーションが欠かせません。Tayoriのようなカスタマーサポートツールは、従業員の声を集めるためのプラットフォームとしても活用できます。人材を最大の資産として活かすためのHRM戦略の構築と実行に、ぜひTayoriをご活用ください。

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著者:Tayoriブログ編集部
日頃からカスタマーサポートと向き合うメンバーが、問い合わせ対応の課題解決とビジネス成長を支援するため、カスタマーサポートや業務効率化に役立つ情報を発信しています。

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