なぜ再春館製薬はコールセンターの営業化に成功したのか? 〜顧客の心をワシづかみにする社員育成術
すべての社員が同じベクトル、同じ意識で働く。どんなに素晴らしいことでしょう。しかし社員の意識を変えるのは、そう簡単ではありません。
今回はコールセンターの意識を大きく転換し変革に成功した再春館製薬所の取り組みをご紹介。ドモホルンリンクルなどの販売で知られる同社ですが、今ではCS部門が売り上げを支えるまでに成長しています。なぜコールセンターを営業部門へと再定義することに成功したのか。確信に迫ります。
コールセンター、全員が正社員
「いまは約1,000人の社員が全員、同じ商品のことを考え、お客様のことを考えることが出来る環境になっています」
と語るのは、再春館製薬所社長・西川正明氏。会長である母・通子氏の後を継いだ30歳のころでした。2004年に会社を引き継いだとき、通子会長が作り上げたダイレクトテレマーケティングシステムを継承しつつも、「本当に顧客と向き合えているのか?」という直感的な課題に対してアプローチを開始しました。
顧客との接点、お客様プリーザー
再春館製薬のコールセンターはアウトバウンド・インバウンドともにすべて正社員雇用。テレビCM・通販を主軸としたビジネスモデルですので、顧客との接点であるお客様プリーザー(コールセンター)を最重要視しています。この業界では通常、コールセンター機能をトランスコスモスのようなテレマーケティング企業へアウトソースするのが一般的。しかし再春館製薬はコールセンターを外部に委任しませんでした。
会員数の頭打ちを打開するため改革へ
元々、あらゆるデータをKPI化しITを使った徹底的なデータドリブンマーケティングを行ってきた再春館製薬。さらに徹底し分析を進めたところ、会員数の頭打ちというシミュレート結果が弾き出されました。
会員数の頭打ちを打開するため、改革プロジェクトチームが結成されたのです。このときの目標はたったひとつ、
お客様に喜んでいただき、末永くお付き合いしていただく
ということです。
徹底したデータドリブンマーケティングで課題発見
会社の業績を伸ばしてきたやり方にメスをいれるのは、容易なことではありません。
従来からのデータ解析手法により、ドモホルンリンクルのサンプルを試したユーザーの25%は初回購入に至ることがわかっていました。その後、2回目の購入が60%、3回目が75%、4回目以降は80%以上、8回以上の購入になると90%にものぼります。ドモホルンリンクルの顧客は、購買回数を重ねる毎にリピート率が上がっていくのです。
ディズニーランドもリピーターが95%を誇る企業として知られていますが、「商品のファン化」の重要性はドモホルンリンクルも同様です。
データ解析の結果から見ると、2回目、3回目の購入率を高めることが事業拡大のポイントになると読み取れますが、このとき、プロジェクトチームは視点を変えてみることにしたのです。
「1年間継続してもらうこと」にKPIを変更
改めてデータを解析したところ、初回購入後、再購入までのリードタイムがかなり分散していることが分かりました。再購入を促すため、チームは次のような一律のアウトバウンド施策を行っています。
- 初回購入後60〜90日の時期を狙い、ダイレクトコールで購入促進する
- ダイレクトコールで購入してもらえなければ、しばらく検討期間を設ける
- さらに60日後、もう一度勧誘の電話をかける
しかし、一律の対応では顧客の実情にあっていない可能性が大きいもの。そのため、分析軸を購入回数から期間に変更。その結果、1年間利用し、かつ4点セットを購入した顧客は効果を実感、リピート率が高くなる傾向にあることがわかりました。この結果、KPIを「1年間継続してもらうこと」に変更したのです。
この変更はたいへん理にかなっています。日本には四季が存在し、季節ごとに人の肌は状況が変化します。そこに「ドモホルンリンクルは一年を通して効果を発揮できる」と実感した人だけが継続利用していると考えられたのです。
顧客対応の重要性が浮き彫りになる
その後、お客様プリーザーが離反した顧客へ質問を行ったところ、社内の問題が4点、浮き彫りになりました。
- 顧客の真の課題(=本音)を聞きだせず、アドバイスを受け入れてもらえない
- 商品の効能について他社との差別化を伝えられない
- 商品に過度な期待を持たれて、そのギャップを埋められない
- 顧客ごとに肌のニーズが違うため、顧客にあった具体的な使用量をアドバイス出来ず、効果を実感させられない
対してドモホルンリンクルのリピーターは、肌の悩みなどについてお客様プリーザーに相談し、具体的なアドバイスを得ており、再春館製薬との信頼関係を密に構築していました。つまり、顧客対応の重要性が改ためて浮き彫りとなったのです。課題があらためて掘り起こされることで、これがお客様プリーザー、CS部門のモチベーションアップに繋がりました。
アフターケアに絞ったアウトバウンドを構築
1年間の購買動向を分析した結果、サンプル入手後10〜15日の段階で使い方を正確に把握し、効能を理解し、前向きな気持で利用していないと、初回の購入につながらない事が明確になりました。
トークスクリプトを具体化
そこで、初回購入から45〜60日の間での中だるみを防ぐため、販促を行わないアウトバンドコールを行うことに。「ただ、電話を掛けるだけ」では売込みと見なされ警戒されるため、
- 詳細を記したDMを発送後
- その後電話を掛ける
という二重の対策を行いました。継続的・定期的な邪魔にならないアウトバウンド施策を行うことを徹底しました。
この施策を行うためにはシステムだけではどうにもなりません。現場であるお客様ブリーダーが運用して初めて成立します。そのため、トークスクリプトをお客様プリーザーが腹落ちするまで具体的な表現に落とし込みました。
行動指針を明確化。リーン・スタートアップで改善を重ねる
さらに、CS部門の行動指針も3つ設定しました。
- お客様の悩みを理解するために、心を開いてもらう
- お客様の悩みに対し向き合いアドバイスを重ねる。個別の悩みに応じ、商品の機能及び他社品との差異を説明する
- 期待される効果を伝えた上で、正しい使い方や量を伝え、商品の効果を実感してもらう
この後、リスク軽減のためテストマーケティングを実施し、スモールスタートによるA/Bテストを始めます。その結果、アフターケアを充実させたほうが、インバウンドでのリピート率が伸び、結果売り込むためのアウトバウンドが減ったのです。この期はPDCAサイクルを回し、プランをブラッシュアップに専念しています。
最近流行りのリーン・スタートアップのモデルと同様です。そのおかげで、三つ目の行動指針は後々ピボット、追記がなされ、
- ドモホルンリンクル以外の肌のアドバイスにもきちんとしていくこと
という行動指針が加えられました。
400人、全社員泊まりがけの研修を行う
この期、再春館製薬は「残存率5%向上」をKGIと定めていますが、数値目標だけでは人は動きません。そこで「お肌と心で満足いただき、一年を超えたセットでの末永いお付き合いを実現する」というUSP(ユニークセリングプロポジション・独自の強み)の設定を内部的に行っています。
これらを400人にものぼるお客様プリーザーに徹底してもらうため、泊まりがけの研修を全社員に行うことにしたのです。もちろんハイコストであることはわかった上での決断です。
このような取り組みが功を奏し、アフターケアに絞ったアウトバウンドの構築に成功したのです。
自分たちが作り上げたものという意識
管理部門が意志を現場に伝えるのには苦労を伴います。改革を行うためには同じ気持になってもらわなければ進みません。そのため、あえて口に出さず、ひとつひとつの行動の意味を一緒に考えたり、考えさせることに腐心しました。徹底的に議論を繰り返すのは大変ですが、お客様プリーザーが「顧客志向」になる意識改革に繋がっています。
14期連続増益の達成
これらの施策を行った結果、当初設定したKGIである残存率5%向上を達成。年12億円の売上向上にも繋がります。14期連続増益の達成、売上増加の50%がCS部門育成プロジェクトの成果でした。
再春館製薬代表の西川氏はこう語っています。「正しい売上とは顧客が喜んだかどうかの指標であり、売れた売れなかったはスキルではなく顧客に喜んでもらえる努力、真心などを含めたもの。綺麗になってもらうために価値を提案しているかどうかの違いではないか」と。
つまり、顧客の心をワシづかみにしたのは、顧客と徹底的に向き合う姿勢でした。
まとめ
ここまで見てきたような細やかな取り組みにより、再春館製薬はCS部門を営業部門のひとつとして再定義することに成功しました。しかし実現には高額なコストや長い時間が必要なのも事実。
Tayoriを利用すれば顧客の悩みを解決できるかもしれません。無料で使い続けられますので、この機会にCS部門の営業化、ミニマムスタートしてみませんか?
参考: 杉田浩章 著『思考する営業』(ダイヤモンド社、2009年刊)