「FAQはあるがイマイチ効果を実感できない」。そんな悩みの声をよく耳にします。
ずばり、FAQはリリースしたら終わりではありません。継続的に効果測定を行い、ユーザーのニーズをとらえて更新し続ける必要があります。改善を続けた先に「真のFAQ」が生まれます。
2024年1月16日に開催した「『良いFAQの育て方』著者が語る 成果をあげるFAQの運営ノウハウとは」(主催:株式会社PR TIMES)では、樋口恵一郎氏が自著の内容にもとづいて、成果をあげるFAQの運営ノウハウについて解説しました。本記事では、当日のセミナー内容の一部をご紹介します。
【こんな方にオススメです】
- FAQはあるが効果を感じられない方
- FAQを更新する時間がとれない方
- FAQをこれから作りたい方
- 問い合わせ対応を効率化したい方
樋口恵一郎 氏|ハイウエア株式会社 代表
プログラマ、通信機器SEを経て2007年にITコンサルとして起業。AIの周辺技術(自然語対話解析、音声認識、チャットボット、FAQシステムなど)の多くの導入に携わる。システム導入先はほぼカスタマーサポート、コンタクトセンターということもあり、導入効果測定値とコンテンツの密接な関係性に着目する。研究と商用運用を積み重ね、FAQコンテンツ(書き方)の質がカスタマのみならずシステムやカスタマーサポート従事者の能力を活かし大きな効果を上げることを実証する。その実績と経験を『良いFAQの書き方』、『良いFAQの育て方』として上梓しさらにコンタクトセンター現場やセミナーで展開している。
【目次】
【成果編】FAQは実利に結びつく
FAQ運営の「成果」とは
結論から申し上げますと、FAQ運営の「成果」は「お金」です。直接的すぎる表現ですが、お金は最も身近で納得しやすい指標だからです。FAQ運営に限らず、すべての仕事に共通するものだと思います。
例えば、ユーザーの「自己解決率」が上がれば、コンタクトセンターやカスタマーサポートへのコール数(対応にかかるコスト)を削減できます。減ったぶんだけ「労務時間」も短くなり、オペレーションが効率化します。「顧客満足度」が上がれば、顧客のサービス利用期間が長くなり、サブスクサービスであれば売上が増加します。
成果につながる数値を「可視化」する
FAQ運営の成果につながる数値はたくさんあります。重要なのは、成果につながる数値を「可視化」することです。
コンタクトセンターでは、着信数や応答率などが代表的な数値です。また、最も多いCR数(コンタクトリーズン=顧客が連絡をする動機)や、最も多く見られているFAQ、問題を完全に解決した数など、さまざまなデータを可視化し評価する必要があります。
具体的な⽅程式として、例えば「役に⽴った」というユーザーからのフィードバック数をフィードバックのクリック総数で割ることにより、⾃⼰解決率が暫定的に⾒えてきます。暫定的とはいえ、フィードバックのアンケートに回答するユーザーはかなり少ないため、ユーザーの⾃⼰解決率を⾒るのは有効な⽅法です。また、FAQリリース後の問い合わせ数、AHT(平均処理時間)の増減などは、労務時間の変化や効率化を示す数値として有効です。
顧客満足度を上げるならFAQが重要
顧客満足度は、問題解決までのスピードが大きく影響します。
例えば、問題がある状態を起点とし、問題が解決すれば満足度は上がります。また、FAQで待たされることなく自己解決できた、FAQがわかりやすく書かれておりすぐに解決できた、となれば満足度はより一層上がります。さらに、チャネルがとても大事で、最初に接触したチャネルで解決できれば満足度は大幅に上がります。
問題や疑問が生まれたとき第一になにをするかという調査で、「電話をする」よりも「インターネットで調べる」が圧倒的に多いという統計結果があります。なので、コールセンターは氷山の一角でしかなく、最初のチャネルはFAQである可能性が高いといえます。
つまり、FAQ運営は顧客満足度に直結します。FAQを利用するユーザーを増やす、FAQでの自己解決を増やすということは、顧客満足度を上げるうえで重要な取り組みです。
【方法編】作って終わらせない、FAQを育てる方法論
FAQを育てる「実践」「継続」
FAQ運営で成果をあげる方法についてお話しします。FAQ運営では、Output(提示)、Analysis(分析と判断)、Improvement(改良・改善)の大きく3つのステップを意識してください。
まずOutputとは、ユーザーに情報を提供することです。FAQをWebサイトに掲載しユーザーがアクセスできるようにします。次にAnalysisでは、ユーザーから得た各種データやフィードバックを分析・判断します。最後にImprovementでは、分析をもとにFAQを改良しさらなる改善を図ります。
このステップを「実践」「継続」して、サイクルを回すことがなによりも大事です。FAQをリリースした後、長期間放置してしまうケースが多いのですが、FAQを育て続けることで成果をドンドン高めることができます。
より伝わるよう「推敲」を続ける
FAQの育て方の具体例として、回答の改善についてお話します。例として、「パスワードの再発行手続き」を挙げます。
この回答は一見問題ないように思えます。しかし、ユーザー評価は低く、自己解決ができずにコール数が減らないという状況です。このような場合、さまざまな視点から文章を見直してみましょう。
例えば、パスワードの再発行を案内するページをつくり、リンクを載せて「こちらをご覧ください」という簡潔な文章だけにすると、少し改善されるかもしれません。他には、箇条書きで手順を示したり、ポイントとなる部分を太字にするなども良さそうです。
大事なのは、ユーザーの反応を常に確認しながら「推敲」を続けることです。一度変更を加えて効果が出なくても諦めてはいけません。さまざまな表現を試し、最適な形を見つけていきます。
メールやLINEを送る際、相手にうまく伝わるように文章を練り直すことがあると思います。FAQも同じで、ユーザーに情報がわかりやすく伝わるよう表現や構成を工夫しなければなりません。たとえ短いFAQであっても改善のためにできることは多くあります。大切なのは、ユーザーの気持ちに寄り添い、彼らが直面している問題をより早く解決する方法を模索することです。
別の具体例として、質問の改善についてお話します。まず、ユーザーが求める質問を見つけられるよう、各質問を並べたときの読みやすさを確認しましょう。現状だと各質問の文章に統一感がなく、読むのに手間取る可能性があります。
例えば、「〇〇を知りたい」という感じで質問形式を統一するのはどうでしょうか。「パスワードの再発行手続きを知りたい」「郵送の手続きを知りたい」など、質問形式を統一することで、ユーザーが求める質問を見つけやすくなります。
さらに、言葉遣いも工夫してみましょう。「スマートフォン」ではなく「スマホ」という話し言葉を使うことで、親しみやすさが増しユーザーの理解がスムーズになります。また、「プレミア会員」ではなく「プレミアペイ」に変更するなど、ユーザーにとってより馴染みのある言葉に置き換えるのも効果的です。
最後に、質問の表現をさらに簡潔にできないかを検討します。例えば、「パスワードの再発行手続きを知りたい」を「パスワード 再発行手続き」というように省略し、直接的なフレーズにすることで、求める質問をより早く見つけやすくなります。
この改善はあくまで例なので、必ずしも良い結果が得られるわけではありません。ここでお伝えしたいのは、「FAQを放置してはいけない」ということです。FAQを都度見直し、ユーザーのニーズに合わせて最適化することが重要です。
たとえ小さな変更であっても、FAQを良くしていこうとする企業の姿勢はユーザーに伝わります。FAQ運営の継続的な努力が、結果として大きな成果につながります。
【準備編】成果をあげるFAQ実践ノウハウ
FAQ運営を円滑にする3つのポイント
FAQ運営を円滑にする準備について、3つのポイントをご紹介します。
まず、「よくある問い合わせ」という良質なコンテンツを用意する必要があります。質の低いFAQは改善に取り掛かるのも難しくなるので気を付けましょう。
次に、これが中々できない人が多いんですが、戦略的に「スモールスタート」ではじめることが大事です。多くの人は最初からすべてを網羅しようとしますが、重要な部分から作って徐々に拡大していくことをオススメします。
最後に、「ガイドライン」を固めます。FAQ全体の文章に一貫性を保つためのぶれない下地になります。
「選択と集中」戦略的なアプローチ
コンタクトセンターには日々さまざまな問い合わせがきます。例えば、「お金はいつ振り込まれますか?」といった質問の電話がきて、これに対して「〇月〇日までにお振り込みします」という回答をします。この一連の会話はすべて記録され、何千何万と会話が貯まっていきます。これらを必ず分析しましょう。蓄積された会話を分析し、カスタマーサポートの改善に活かさなければなりません。
実際に分析をすると、同じような問い合わせが多数存在することが明らかになります。数万件の問い合わせがあったとしても、パターンは数万件もないので、問い合わせを集計して仕分けることが重要です。これを「コンタクトリーズン分析」と呼びます。
例えば、数万件の問い合わせを分析して、千個のパターンに分類できたとします。さらに、各パターンの件数を集計して並べると、「パスワードを忘れた」「予約をキャンセルしたい」など、一部のパターンが飛び抜けて多いことが明らかになります。
これが、「よくある問い合わせ」、つまりFAQ(Frequently Asked Questions)です。問い合わせ全体のなかで特に対策すべき部分が見えてきます。すべての問い合わせパターンを網羅するのではなく、まずはFAQを抽出して焦点を当てるのが効果的です。
過去に作成したFAQが何千もあるとしても、関連する問い合わせ数やアクセス数などを分析し、上位2割のパターンだけを残し、下位8割は削除してもいいです。上位2割でユーザーに生じる問題の大多数をカバーでき、下位8割を削除しても全体の解決数はほぼ減りません。勇気を持って「選択と集中」のアプローチを取ることで、運営リソースを効率的に活用でき、素早くFAQを改善していくことができます。
シンプルを徹底した書き方
FAQの作成にあたっては、ただ書くだけではなく、FAQを「育てやすい」ように意識して書くことが重要です。ここで、二つのFAQを例として挙げます。多くの人は、右のほうが読みやすいと感じるでしょう。これは、左よりも右のほうが育てやすいからです。
FAQを育てるとは、はじめから内容をたくさん盛り込むのではなく、シンプルな内容からスタートし、必要に応じて詳細を加えていくということです。これはスモールスタートの考え方にもとづいています。まずは右のような読みやすいFAQを目指し、時間をかけて内容を充実させていくことが、高品質なFAQを作成するうえでのカギとなります。
FAQの情報を多くしても、ユーザーにとって読みづらくなるだけです。例えば、パスワードを忘れたユーザーに対し、とても詳細で思いやりが感じられる文章を用意してもあまり意味がありません。ユーザーが必要としているのは、「パスワードをいかに早く手に入れるか」ということだけです。
質問文の場合、必要となるキーワードだけで構成することが肝心です。「〇〇サイト」「パスワード」「再発行」「手続き」というキーワードを組み合わせるだけで十分です。最小限に抑えることで、ユーザーは求める質問をスムーズに見つけられます。アンサー文も、必要となる情報だけを書きましょう。例えば、「メールアドレス」「電話番号」「氏名」「住所」などの必須事項を簡潔にまとめます。
ユーザーにすべての情報を届ける必要はなく、彼らの問題を解決するための重要な一点を伝えるだけで十分です。
また、「再発行手続きを知りたい」「再設定手順を知りたい」「郵送手続きを知りたい」など、さまざまなニーズのFAQを定型文で増やすことができます。単語を入れ替えるだけで新しいFAQを作成でき、数多くのニーズに素早く対応することができます。
定型文のコツは、必要なキーワードを適切な場所に挿入することです。ただし、すべてのFAQに適用できるわけではないので注意しましょう。基本的にはユーザーのニーズをしっかり把握し、文章に反映させることが先決です。
ガイドラインで一貫性ある品質を
FAQの作成において、ガイドラインは非常に有効です。ガイドラインの目的は、作成者個々の属人的な文章の書き方を避け、一貫した品質を保つことにあります。FAQは公開文書としてインターネット上に掲載され多くの人に読まれるため、文章が「ブレない」というのがとても大事です。
ガイドラインは、どのように文章を書くべきか、どのようなスタイルやフォーマットが望ましいかを明確に示します。ガイドラインに沿って作成を続けられれば、一貫性のある高品質なコンテンツを生み出すことができ、FAQの成果を最大化できます。ユーザーにとって有益な情報源ともいえるので、企業の知的財産としての価値を持つようになります。
例えば、「パスワードの再発行手続きを知りたい」というこのFAQは、ガイドラインのさまざまな指示に沿って書かれています。
ガイドライン一例
質問の書き方
- ユーザーの立ち位置で書く
- 定型文にする
- 30文字以内にする
回答の書き方
- 冒頭で質問を繰り返す
- 回答ファーストにする(冒頭で結論を書く)
- 質問・回答は同じ用語を使う
- 400文字以内・15行以内にする
- 箇条書きにする
- 文字の強調、下線、サイズ変更などはしない
- 同じ意味の言葉は同じ用語を使う
- 汎用語、略語など用語集に従う
- リンクを基本的に設置しない(必要な場合は最下段に一つまで)
- 「です・ます調」で書く
- 手順の場合は「だ・である調」で書く
そして、重要なのが「模倣する」というプロセスです。つまり、ガイドラインによってFAQの書き方を模倣する(標準化する)ことで、FAQ全体の成果を高めることができます。新しいFAQもゼロイチで書くのではなく、既存のFAQをベースにしていきます。
FAQを成功させるには、ガイドラインによる一貫性のあるアプローチが重要です。ガイドラインを定め適切に運用していくことで、顧客満足度は向上し、成果をあげるFAQの運営が実現できます。
Q&A
Q. FAQを運営するリソースが足らず、まさに作りっぱなしで放置しています。割ける時間が少ない場合、最低限どこから手をつけるべきでしょうか。
A. まず最初に取り組んだほうがいいのは「不要なFAQの削除」です。現在あるFAQのなかから、あまり見られていないものを見つけ、削除することで、FAQ全体の管理が簡単になります。頻繁に見られているものを誤って削除することのないよう注意してください。
これにより、集中すべきコンテンツが絞り込まれ、時間の割り当てがしやすくなります。コンテンツを絞り込めば、「〇〇を〇〇したから良くなった」というように改善効果も明確になりやすいです。
Q. ユーザーからの評価が良いか悪いかはどのように把握したらいいでしょうか。
A. よくあるのが、「役に立った」「役に立たなかった」というアンケートですが、正直あまり回答してもらえません。なので、コンタクトリーズン分析をしっかり行って、FAQのPVと問い合わせ数の相関が取れるといいですね。つまり、PVが増えていて関連した問い合わせが減っていれば、そのFAQは良いと評価ができます。
Q. 質問に対し解決方法が複数ある場合、回答はどのように書くのがいいでしょうか。
A. 質問に対し回答が複数ある場合は、そもそも質問が十分に作られていない、絞り込まれていないことが原因です。
例えば、「メールが受信できません」という質問は、「どのようなメールが受信できないのか」「どのような状況で問題が発生しているのか」といった深掘りが不足しています。コールセンターのオペレーターであれば、問題解決に必要な情報を収集するため、迷惑メールのフォルダに入っていないかやメールサービスの容量などを尋ねるでしょう。
質問を絞り込むには、5W1H(誰が、何を、いつ、どこで、なぜ、どのように)のフレームワークが活用できます。5W1Hの各要素をFAQの質問に含めることで、質問を適切に細分化でき、より具体的な回答を提供することができます。
Q. 上司の指示で回答文にイレギュラーケースも載せなければならず、どうしても文章が長くなります。どのように説得すればいいでしょうか。
A. これは本当にあるあるですね。FAQは絶対にシンプルに書いたほうがいいです。こういった指示は感覚的で、追記することで効果が上がるというようなエビデンスは持っていないでしょう。
上司の方に言いにくいかもしれませんが、「数字で結果を示す」というのが一番手っ取り早いです。数字を提示し続けてベストはなにかを理解してもらうことが解決への一歩となります。
まとめ
本セミナーで樋口氏は、「FAQ運営における成果」「FAQを育てる方法」「FAQ運営を円滑にする準備」という流れで、ノウハウを簡潔に説明されました。セミナー終盤のQ&Aでは参加者からたくさんの質問が寄せられ、個別具体の知識も深めることができました。
終了後の参加後アンケートでは、大多数がポジティブなフィードバックで、参加者にとって満足度の高いセミナーになったものと思います。今後もPR TIMESは、カスタマーサポート業務のノウハウを共有する実践的なセミナーを開催していきますので、どうぞご期待ください。
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FAQで成果をあげるなら「Tayori」がオススメ
FAQを手軽にはじめたい、素早く改善したいという方にオススメしたいのが、最小限の工数で運用できる「Tayori(タヨリ)」です。Tayoriは、「フォーム・受信箱」「FAQ」「アンケート」「チャット」の4つの機能を提供するカスタマーサポートツールです。
FAQ機能では、FAQページやヘルプページを手軽に作成でき、直感的な操作性でスピーディーに編集・更新ができます。レスポンシブ対応をしているので、スマートフォンやタブレットで閲覧しても画面表示は自動で最適化されます。
Tayoriには無料プランが用意されています。まずは無料でFAQを作成したいという方は、ぜひTayoriを試してみてはいかがでしょうか。
成果の出るFAQに育てるためには、Googleアナリティクスなどでのアクセス解析が必要です。Tayoriの有料プランでは、FAQとGoogleアナリティクスの連携が可能です。
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