
顧客対応の現場で「記録」の重要性を指摘する声が増えています。多くの場合、それは「万が一のトラブルに備えて」という文脈で語られます。
AIカメラシステム「VASS」およびボディカメラ「MOTウェアラブルカメラ」を展開する株式会社バルテックが2026年6月に発表した調査からは、この「記録」をめぐって、担当者を守るという役割にとどまらない意味合いが見えてきます。
調査結果:記録したい8割、記録できていたのは1割未満
同調査は、対面で顧客対応を行う従事者500名を対象に実施されたものです。業務中にカスタマーハラスメントに該当するような迷惑行為を受けた経験がある人は61.4%にのぼり、性別・年代による差はほとんど見られなかったとのことです。
あわせて注目されるのが、「記録」に関するデータです。被害を経験した人のうち82.4%が「その状況を記録できればと感じた」と回答した一方、実際に何らかの形で記録ができていた人はわずか7.8%にとどまりました。「記録したい」という意向と、「実際に記録できている」という実態の間には、大きなギャップがあることが明らかになっています。
なぜ記録が難しいのか
このギャップの背景には、記録の仕組みが「起きてから対応する」ものとして捉えられがちな現状があります。カスタマーハラスメントのような事態は突発的に発生するため、その場で記録を残す手段や体制があらかじめ整っていなければ、対応は後手に回りやすくなります。
現場を想像すると、その難しさはより具体的に見えてきます。理不尽な要求を受けている最中に、担当者がメモを取ったり、録音の操作をしたりする余裕は多くありません。
また、「どこまで記録すべきか」「誰が記録を確認するのか」といったルールが定まっていない職場では、記録を残す動機づけ自体が働きにくいという事情もありそうです。
なお、今回の調査は対面での顧客対応を対象としたものですが、電話やチャットなど対面以外のチャネルであっても、事情は大きく変わらないと考えられます。むしろ電話対応では、声のトーンや会話の流れといった非言語的な情報が記録に残りにくく、対応後に「何を、どんな順序で言われたか」を正確に再現するのはさらに難しくなる可能性もあります。
一方で、記録という仕組みそのものは、突発的なトラブル対応に限らず、日常の問い合わせ対応の中でも一定の役割を果たしています。過去のやり取りの経緯を踏まえた対応や、担当者が変わっても対応の質を保つ仕組みは、いずれも記録の蓄積を前提にしています。
- 過去のやり取りの経緯を踏まえた、一貫性のある対応ができる
- 「言った・言わない」のすれ違いを防げる
- 担当者が変わっても、対応の質が落ちにくい
記録の整備は、不測の事態への備えであると同時に、日々の対応の質を支える基盤としても機能していると言えそうです。実際、問い合わせ対応の履歴が個人のメモやメールの受信箱に散在している状態では、突発的なトラブルの記録も、日常的な引き継ぎも、どちらも同じようにこぼれ落ちてしまいます。
逆に言えば、日頃から対応履歴を残す習慣が根づいている現場ほど、いざというときの記録も自然に残りやすいという関係にあるとも考えられます。
制度面の動き:2026年10月からカスハラ対策が義務化
こうした動きの背景には、制度面の変化もあります。2026年10月からは、改正労働施策総合推進法に基づき、カスタマーハラスメント対策がすべての事業主に義務づけられます。相談体制の整備や、証拠保全を含めた記録の仕組みづくりが、企業規模を問わず求められることになります。
義務化への対応をきっかけに、これまで属人化していた対応履歴や引き継ぎの体制を見直す企業も増えると見られます。結果として、トラブル対応のための記録整備が、日常のカスタマーサポート対応の質そのものを底上げする副次的な効果を持つ可能性もあります。
まとめ
株式会社バルテックの調査が示した「記録したいのに、できていない」というギャップは、特定の企業に限った話ではなく、多くのカスタマーサポート現場に共通する課題である可能性があります。
記録の整備は、理不尽な要求から担当者を守るための備えであると同時に、お客様一人ひとりの状況を正しく理解し、一貫性のある対応を届けるための基盤でもあります。2026年10月の義務化を一つの契機として、記録の仕組みを見直す動きは今後さらに広がっていきそうです。
出典:カスハラ被害は顧客対応スタッフの6割が経験 ~ 「我慢するしかない」顧客対応の現状 【VALTEC調査】
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