
多くの企業が「従業員を大切にする」という考え方を経営理念に掲げています。しかし、その理念が従業員自身の実感につながっているかというと、話は別のようです。
株式会社月刊総務が2026年6月に発表した調査からは、企業の“想い”と従業員の“実感”の間にある距離が浮かび上がっています。
調査結果:理念8割、実感につながっているのは半数未満
同調査は、全国の総務担当者175名を対象に実施されたものです。企業理念や経営方針に「従業員を大切にする考え方」が含まれているかを尋ねたところ、84.0%が何らかの形で含まれていると回答しました。「従業員の幸せ」を経営上重視していると答えた割合も69.7%にのぼります。
一方で、実際に人的資本経営に取り組んでいる企業は50.2%と半数程度にとどまりました。さらに、取り組んでいる企業に限定して「人を大切にする観点で不足していると感じること」を尋ねたところ、最も多かった回答は「従業員の実感につながっていない」で53.4%でした。「制度だけ整って運用が伴っていない」も25.0%あり、施策の形式化を指摘する声が目立ちます。
言い換えれば、経営層や人事・総務部門が「従業員のために」と考えて打ち出した施策のうち、半分以上が当の従業員には十分に届いていない可能性があるということです。会社説明資料には立派な理念やウェルビーイング施策の一覧が並んでいても、現場で働く一人ひとりが「大切にされている」と感じられるかどうかは、また別の話だという実態が、今回の調査から見えてきます。
なぜ理念と実感にギャップが生まれるのか
調査結果を見ると、多くの企業が福利厚生の充実(61.7%)や柔軟な働き方制度の整備(49.1%)など、具体的な施策には既に取り組んでいることがわかります。施策そのものが不足しているわけではなさそうです。
たとえば、リモートワーク制度や研修プログラムを整えても、実際に使われるかどうか、使いやすい雰囲気になっているかどうかは別問題です。「制度はあるが、周囲の目が気になって使いにくい」「導入した年に一度説明会をしただけで、その後の運用は現場任せになっている」といった状態では、従業員から見て制度が”自分ごと”になりません。
調査で「制度だけ整って運用が伴っていない」という回答が25.0%にのぼったのも、こうした状況を反映していると考えられます。
むしろギャップの背景にあるのは、企業側が届けたい価値と、従業員が実際に感じている価値との間のずれだと考えられます。従業員の幸せの感じ方は一人ひとり異なり、働き方やキャリアに対する価値観も多様化しています。画一的な制度を整備するだけでは、その多様な実感をすくい上げきれないという構造があるようです。年に一度の従業員満足度調査だけでは拾いきれない、日々の小さな不満や要望が、こうしたギャップの正体なのかもしれません。
求められるのは、継続的に”声”を拾う仕組み
調査では、従業員の幸せのために総務が特に注力すべきこととして、「安心・安全に働ける職場環境の整備」(67.4%)に次いで、「心身の健康支援」「社内コミュニケーションの活性化」がいずれも54.3%で挙げられています。
理念を制度に落とし込むだけでなく、日々のコミュニケーションを通じて従業員の実感を継続的に把握し、経営の意図と現場の感覚をつなぎ続けることが、今後より重要になっていきそうです。年に一度の大規模なサーベイに加えて、日常的な1on1や雑談、簡易なアンケートなど、小さな接点を積み重ねて実感の変化を捉え続ける仕組みが求められていると言えるでしょう。
まとめ
「従業員を大切にする」という理念は、多くの企業にすでに浸透しています。課題は理念の有無ではなく、それをどう日々の実感につなげていくかという運用の部分にありそうです。
制度を整えて終わりにするのではなく、従業員の声を継続的に拾い、経営と現場の間の温度差を埋めていく取り組みが、これからのEX(従業員体験)向上の鍵になると考えられます。
出典:株式会社月刊総務「従業員の幸せについての調査」(2026年6月15日発表)
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